「素朴」な農婦のプライドを見よ グランマ・モーゼス展

田中ゑれ奈
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 ご自慢のジャムとバターと、それから絵。古き良きアメリカの農村暮らしを描く「素朴な」主婦は78歳で見いだされ、一躍、国民的画家となった。大阪市阿倍野区あべのハルカス美術館で17日に始まる「グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生」(朝日新聞社など主催)からは、その誇り高き横顔が見えてくる。

 後に「グランマ・モーゼス」と親しまれるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスは1860年、ニューヨーク州北部生まれ。27歳で結婚後は農場を営み、野菜や家畜を育てる自給自足の毎日を送った。

 70代半ば、関節炎で余暇の刺繡(ししゅう)ができなくなった代わりに本格的に絵を始めた。1938年に地元のドラッグストアで展示した作品をコレクターが偶然見つけ、画廊に紹介。80歳で初個展を開くと、まもなくその名は国内外に知られていった。

 モーゼスが描く四季折々の農村風景や共同体の生活は、自身の体験に根ざしたものだ。「キルティング・ビー」では大勢の人が集まってにぎやかにキルトを縫い、そばのテーブルには仕事の後の食事の支度ができている。「彼女にとって絵は特別な才能の表れではなく、キルトづくりなどの延長線上にあった」と、展覧会を監修した千足伸行・広島県立美術館長は話す。

 自然相手の仕事も人生も時に厳しい。モーゼスは火事や嵐といったモチーフを繰り返し描き、実生活では10人の子のうち8人に先立たれた。「でも、彼女の絵に悲壮感はなく、どこかドライで客観的。どうしようもない変容の中で個としてのあり方をぶれずに保っていく姿勢を感じる」と、あべのハルカス美術館の浅川真紀・上席学芸員。例えば、「洗濯物をとり込む」は突然の雨にも動じず淡々と働く人々の姿が、したたかな農民の精神を象徴するようだ。

 「素朴派」と呼ばれる独学画家の一人として脚光を浴びたが、そんな美術界の動向をあずかり知らぬ本人は「プリミティブ」という言葉を嫌った。若い頃から家計を夫に頼ることを良しとせず、手製のバターやポテトチップスでビジネスを展開し、個展の開会式でもカバンからジャムの瓶を取り出してみせたという。

 「自分の手が生み出すものへのプライドと、その喜びを他者とシェアしたい気持ちが強い人だったのでは」と浅川さん。ジャムも絵も同じ。心づくしのごちそうが細かく描き込まれた絵を眺めれば、今でもそのお裾分けにあずかれそうだ。(田中ゑれ奈)

展覧会公式サポーター 結城アンナさんのメッセージ

 グランマ・モーゼスの絵を見ると、突然穏やかな気持ちになります。まるでモーゼスおばあちゃんが、私に語りかけるように感じるのです。メッセージには優しさと安心感があります。“この世界は良いところです”“すべて大丈夫よ。あなたの周りのすべての美しいものを見て、今を楽しんでください”と。

 スウェーデン生まれ。10代からモデルとして活躍。夫は俳優・岩城滉一氏。60歳を迎えてから本格的に芸能活動を再開。著書「自分をいたわる暮らしごと」やSNSなどで自らのファッションやライフスタイルを発信している。

◇4月17日[土]~6月27日[日]まで、大阪・あべのハルカス美術館。4月19日[月]、5月10日[月]は休館

 [火]~[金]は午前10時から午後8時、[月][土][日][祝]は午後6時まで。いずれも入館は閉館の30分前まで

 ◇一般1500円、大学・高校生1100円、中学・小学生500円

 ◇問い合わせ 同美術館06・4399・9050

 ◇公式サイト https://www.grandma-moses.jp/別ウインドウで開きます

 主催 あべのハルカス美術館、朝日新聞社、MBS、東映

 後援 アメリカ大使館

 協力 ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク、日本航空

 協賛 損保ジャパン、NISSHA、ダイキン工業竹中工務店

 ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、混雑時には展示室への入場をお待ちいただく場合があります