ThinkGender あなたと拓く、あなたと決める

オピニオン編集部・藤田さつき 政治部・明楽麻子
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 朝日新聞は国際女性デー(3月8日)にあわせたオンラインイベントとして、「Think Gender あなたと拓(ひら)く、あなたと決める」を同14日に開きました。学者、経済人、政治家、官僚が日本におけるジェンダー平等について議論し、視聴者からの質問に答えました。国内外で活躍する女性たちから、多くのメッセージも寄せられました。

 第1部「川上未映子さんと語る『コロナとジェンダー』」には、国際女性デーにあわせて日本で二つの短編作品「刺繡(ししゅう)糸」「恥」を発表した作家の川上さんが出演。朝日新聞の藤田さつき記者とのトークで、日本社会に根付くジェンダー意識を言語化していきました。

 コロナ禍に直面する女性たちの苦境から、性被害や幼少期の刷り込み、男性リーダーによる「わきまえない」発言まで――。話題は多岐にわたりました。「恥」という作品のテーマの一つである「見た目」をめぐるやりとりでは、レースの襟とリボンをあしらったドレッシーな黒いワンピース姿の川上さんが「私はよく、女性を意識しているんですか、作家なのに派手ですね、と言われるんです。女性って、外見や服装について説明や許可を求められることが多い」と指摘しました。

 もうひとつの「刺繡糸」は、コロナ禍によって追い詰められていく女性の心象風景を描いた作品。「自分の苦しさに気づいていない多くの女性たちに読んでほしい」。そんな思いから、2時間ほどで一気に書き上げたということでした。

 日々の違和感や気づきをシェアしていくことが、ジェンダーギャップの解消につながる――。イベントを通して川上さんはそんなメッセージを発してくれました。(オピニオン編集部・藤田さつき)

 2部制だったイベントの第2部では、「扉の先の世界を語ろう」と題し、4人が登壇。野村ホールディングス株式会社で「未来共創カンパニー」を担当する池田肇・執行役員▽昨年末の国民民主党代表選に子育て政策を掲げて立候補した参院議員の伊藤孝恵・同党副代表▽男女格差の解消が進むアイスランドでの大使経験がある外務省の志野光子・国際文化交流審議官がパネリストで、進行役は法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科の高田朝子教授が務めました。

働き方変化 評価にも多様性を 野村ホールディングス株式会社の池田肇・執行役員

 コロナ禍によって変化を迫られる日本社会の現状をそれぞれの立場から指摘しつつ、男女格差を解消することでどのような「世界」が開けるのか議論しました。

 主なやりとりは、次の通りです。

 ●コロナ禍で価値観が変化、ジェンダーバランスで多様な意見吸い上げるチャンス

 高田 コロナ禍で何が変わりましたか。

 伊藤 中央官庁では、長時間労働が問題になってもデジタル化は進んでこなかった。政治家が説明を求めると、官僚が大量の紙を持って説明に行くんです。その「永田町の常識」が、コロナ禍で急激に変わってきました。

 池田 企業も今までの価値観を大きく変えていかないといけなくなった。従来の延長線で人材を評価することが難しくなった。働き方が多様化したのを受け、新たな評価を仕組みとして作ることが大事です。その際、例えば男性が多いとその常識で仕組みが決まりがちだが、ジェンダーバランスがとれることで、バラエティーに富んだ意見を吸い上げることができるようになる。

 高田 最近は、子どもの育児と親の介護の「ダブルケア」をしないといけない世代が増えています。ジェンダーの視点から、アフターコロナをどうしていきますか。

 伊藤 日本はケアをする人に厳しい国です。なぜか。政界では、育児も介護も誰かにやってもらってきた人たちが意思決定権者になって「そんなのは家でやってもらえばいいじゃないか」と言ってきました。こういう国の形は未来を語るうえで変えていかないといけないと思います。

 志野 アイスランドでは、女性が3カ月、男性が3カ月育児休業を取得すると、ボーナスでさらに3カ月育休がとれます。男性の3カ月間が貴重。ママが休んでいるときにパパが一緒にいると、ママの「サポーター」になってしまう。ママが働いている間にパパが育休をとると、自らおむつを替え、ごはんをつくって掃除をする。将来、介護ダブルケアをするとき、この経験が役に立って担い手もダブルになります。こうした取り組みが日本でも必要では。

扉開けるため 窓になれたら 外務省の志野光子・国際文化交流審議官

 ●次世代のために扉に「窓」を開ければ、開ける勇気が出てくるのでは

 高田 コロナの経験を次世代に向けてどう伝え、つなげていきますか。

 伊藤 私は、初めて選挙に立候補したとき、子どもが1歳と3歳でした。当選後も子どもたちは待機児童だったので、議員会館の一部にキッズスペースを作ったら、1500件の批判を受けました。だけど、ここでやめると、次世代ははじめからやらないといけないと思い、踏ん張りました。我々の世代がコロナ禍で変わるチャンスだと言うなら、自分たちをブルドーザーとして密林を開拓するように、いろんな分野で変えていけるように結束することも必要です。

 志野 扉を開ける勇気がなくても、扉に窓があってその先の風景が見えれば、開ける勇気も出てきます。我々が窓を開けて透かしを入れるように取り組めば、後に続く人たちも大丈夫だという気持ちになるんじゃないかと思います。

 池田 開拓者になるには勇気が必要です。特に現在のような劇的な変化のときに最初に物事を動かしていくには力がいるが、我々の世代が変えていきたい。若い人をどんどん関わらせていくように権限を委譲して、一緒に考えていくことも大事です。

「男女差ない」言い続けること 国民民主党副代表の伊藤孝恵参院議員

 高田 とはいえ、職場での女性登用が進まないのはなぜでしょうか。

 志野 外務省は積極的に登用しています。ただ急に女性を管理職に登用しようとすると、女性側も訓練ができていない。「できない」とレッテルを貼るのではなく、そこまでに広く経験する場所、見る場所を提供することが大事だと思います。

 高田 ジェンダー問題を解決するにはどうしたらいいでしょうか。

 志野 男の問題とか女の問題という話ではなく、社会全体がどういう風にマネージしていくかということです。男性だって女性だって、個性があります。それぞれの個性を個として生かすこと。ジェンダーということが最初に来るのではなく、個を見ていく社会になれば乗り越えられるのではないでしょうか。

 伊藤 日本社会の現状からはきれいごとにされてしまうかもしれないけれど、「男女の差はない」と言い続けることが大切だと思う。言い続ければ、建前で言っているようなことが本音にならざるを得なくなります。ジェンダー問題を真っ向から語り続けることが大切なんだと思います。

     ◇

目が覚めたよう ■チームの力

 イベントには第1部、第2部を通して500人以上の視聴者が参加してくれました。終了後に実施したアンケートには、様々な感想や意見が寄せられました。その一部を紹介します。

 ●胸が苦しくなる理由わかった

 川上さんの「何をするにも女性は説明が必要」という言葉に日々胸が苦しくなる理由がわかった気がします。何も説明しなくても自然体のままにいられる、本来ある自分の姿ってなんだったっけ?とマイナスからの課題を突きつけられたようにも思いますが、説明がなくてもいいんだという気づきもいただきました。(30代女性)

 ●次世代への継承を

 全て自分でしようとせずチームをつくる、ネットワークをつくりつなげて、勇気を持ち発信し続ける大事さが改めて分かりました。経験や修羅場を積み、本人がやりたければやらせられる環境づくりや次世代への継承の芽を大事にしたいです。自分がどうなりたいかを持ち、こうなりたい人をたくさん合体させる話は面白かったです。(70代男性)

 ●取り組みを具体的に

 男性が気づかない、気づけない女性の心理や葛藤、矛盾など考えさせられました。孤独より孤立が心配です。性差から生じる生きづらさやハラスメント、見直さなければならない制度やルールがある現実や実態。試行錯誤はあるにせよ、どう取り組んでいくのか、具体的に突っ込んでいく必要があると思います。(60代男性)

 ●未来に光が見えた

 川上さんの怒りは、自分が感じている怒りと重なりました。真っすぐに言語化してくださり、気持ちがすっとしました。そんな怒りをたたえつつも、第2部を聞いて、「個」を大事にしていこうという考えが進んでいるんだと実感し、未来に光が見えました。ジェンダーを「問題」ととらえず、「可能性」と考えるという視点に、目が覚めたように感じました。(40代女性)

 ●リーダーシップの多様性を

 川上さんの話は、長年女性はこうあるべきだとされてきた呪縛みたいなものが、自分も周りも暗黙の了解みたいに日本にはあるというのが興味深かったです。第2部を聞いて、リーダーシップのスタイルの多様性が日本ではまだまだ認められていないことも女性リーダーが少ない理由なのかなと思いました。リーダーシップのあり方の多様性が認められたら、もっと女性のリーダーは増えるのではないでしょうか。(50代女性)

     ◇

 世界経済フォーラムが3月末に公表した最新のジェンダー平等ランキングでは、政治分野は147位だった。3月末、森喜朗元首相が旧知の女性秘書を指して「女性というにはあまりにもお年」と述べた。女性蔑視発言で東京五輪パラリンピック組織委員会の会長を辞めて1カ月あまり。「またか」と思いながら、でも、これが永田町の現実だという気持ちもあった。

 自民党の女性国会議員が森氏の発言を批判したところ、同僚議員から「同じ党内から鉄砲を撃つのか」と逆に厳しく責められたという話を聞き、ため息をついた直後だった。

 永田町では、こうした発言が必ずしも問題視されてこなかった面もある。だからこそ、ジェンダー問題を話題にし続けることが大事なのではないか。言っても無駄とあきらめることや、批判をおそれて話題にしなくなることが一番こわい。

 発言者や容認してきた周りの人たちの意識改革のきっかけにしなければと思う。(政治部・明楽麻子)

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