日航機墜落事故の遺族描いた絵本、米国から47冊の注文

張春穎
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 520人が犠牲になった1985年の日航ジャンボ機墜落事故で、夫を亡くした女性がつくった絵本に米国から47冊の注文が届いた。誰がなぜ必要としているのかはわからない。それでも、コロナ禍が世界を覆う中、悲しみの先を歩んだ経験が誰かの希望になればと願う。「前を向いていれば幸せは来る」。そんな思いを込めて発送した。

 谷口真知子さん(73)は3月下旬、大阪府箕面(みのお)市の自宅で絵本の発送手続きに追われていた。表紙には夫の正勝さんが植えた柿の木が描かれている。窓越しの新芽をつけたその木に「パパも手伝って」と心の中で話しかけた。荷造りや伝票の入力作業に苦労したが、うれしかった。

 正勝さん(当時40)は85年8月12日、出張帰りに羽田発大阪行きの日航機に乗り、犠牲になった。「まち子 子供よろしく」というメモを、群馬県上野村御巣鷹の尾根に残したまま。

 絶望の中にいた谷口さんと、当時中1と小3の息子2人を勇気づけたのが、正勝さんが事故の5年前に自宅の庭に植えた柿の木だった。事故の年の秋に初めて実をつけた。その後、息子の結婚。孫の誕生。次第に笑顔になれた。

 知人のすすめで2016年、事故前後の家族の物語をまとめた絵本「パパの柿の木」を出版した。

 絵本は次男の視点で描かれている。キャンプで火をおこし、勝手にお菓子を食べてしまうパパ。あの日、お土産を約束したのに戻らず、パパのシャツを抱きながら泣いて寝た。柿の実がなったのを見つけると、お兄ちゃんが「パパからのプレゼントだ」と喜んだ。やがて娘が生まれ、「パパみたいな父親になろう」――。絵本は3世代の笑顔で締めくくっている。

 昨年には英訳版が完成した。読み聞かせ活動がきっかけで知り合った地元のインターナショナルスクールの高校生が訳してくれた。

 事故原因とされる修理ミスをした米ボーイング社の若い社員らにも読んで欲しいと、英訳版に手紙を添えて日本法人に送ると、安全の誓いとともに米国本社の幹部の間で共有したという返信ももらった。

 その後、米国からの注文が入った。誰がどこで絵本の存在を知り、なぜ必要とするのかはわからない。ボーイング社の関係者か。何か力になれることはないのか。想像が膨らむ。

 伝えたいのは、うらみではない。「事故に限らず、大切な人を突然失うことがあるから、日常を大切にして欲しい」「冬は枯れたように見えても、春には力強く芽を出す」。事故、コロナ禍、いじめ。苦しんでいる人に、分野や国を問わずに思いを伝えたい。

 絵本はA4判で44ページ。今後の注文も想定して110冊を船便で送った。15日に出港し、米カリフォルニア州の集荷先に遅くとも3カ月後には到着する。次の命日に間に合いそうだ。「英語の練習をして、いつか米国でも読み聞かせをしたい」(張春穎)