「不思議の郷 遠野」刊行 遠野郷八幡宮の多田頼申宮司

元朝日新聞記者・木瀬公二
[PR]

 柳田国男の遠野物語で知られる岩手県遠野市。市内にある100を超す神社仏閣はどういう理由でその場に建てられたのだろうか。遠野郷八幡宮の宮司、多田頼申さん(68)はそれらの位置を調べ、地元で語り継がれる伝説を思い起こしながら考察した。「偶然ではない」と思えるその結果を「不思議の郷 遠野」にまとめ、今月出版した。

 きっかけは30年ほど前に見たNHKのテレビ番組だ。県外のある地域、北緯34度32分の線上に神社仏閣、遺跡が並んでいるという内容だった。

 すぐに遠野市で調べ始めたが、宮司の仕事も子育ても忙しくなり、しばらく遠ざかっていた。それが昨春以降のコロナ禍で祭りや行事がほぼなくなり、謎解き中心の生活が戻ってきた。

 まず神社仏閣、遺跡を洗い出した。石碑などを除く148カ所をリストアップし、その緯度経度を調べて地図に落とした。史実や伝説に照らし合わせながら、それらを結ぶ線を定規で引いては消し、想像を膨らませ、頭をひねり続けた。

 その結果、「おはや」と呼ばれる女神が生まれた伊豆神社から真北に、「おはや」が守る早池峰山があることが分かった。この二者をつなぐ直線上に遠野早池峰神社や菅原神社など遠野の歴史上、重要な役割を果たす神社や山が並んでいた。真北には北極星があり、「これらは大きな意味を持っている気がする」と多田さん。

 ほかにも、慈覚大師が一本の木から彫ったとされる「遠野七観音」の五つを結ぶと、「五芒星」が現れた。星形には魔物を防ぐ意味があり、多田さんは「星形の中に町や金山がすっぽり入るので、それら全体を守ろうとする結界だったのではないか」と推測。ちなみに五芒星から外れた二つの観音像は当時の松崎(まつざき)村と鱒沢(ますざわ)村にあり、これは「ま(魔)を除いた」とみる。

 着想から42年目で出版にこぎつけた。多田さんは「材料を提示しただけで、答えは導き出していない。これを読み、遠野の神社回りなどをすると、それぞれの答えが出てくると思う。パズルを解くように楽しんでもらえればうれしい」と話した。自費出版で税込み1320円。道の駅「遠野 風の丘」などで販売している。(元朝日新聞記者・木瀬公二)