旧グッゲンハイム邸、自主映画に 予算も人もオール神戸

鈴木春香
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 黒沢清監督の映画「スパイの妻」でロケ地になった神戸市垂水区の洋館「旧グッゲンハイム邸」を舞台に、敷地内の長屋に住む若者たちの日常を描いた自主映画「旧グッゲンハイム邸裏長屋」が5月14日からシネ・リーブル神戸(同市中央区)で公開される。若者の姿を通じ、100年以上の歴史がある同邸の今を記録するねらいがあるという。

 神戸・塩屋の海辺にたたずむ、白と青緑が基調の洋館「旧グッゲンハイム邸」。周囲の斜面を曲がりくねった小道がめぐり、海沿いを電車が走る。三宮駅から電車で約20分という距離にありながら、都会の喧噪(けんそう)から離れた独特の景観を作り出している。

 「海、山、洋館、という神戸のイメージを象徴するようなこの場所を、映画という形で記録に残したかった」。監督を務めた前田実香さん(34)はそう話す。撮影はほぼ全て邸宅の敷地内で行った。邸宅の裏にある長屋に住む若者らのありふれた日常と、華やかな洋館の対比を意識したという。

 長屋の住人たちはスウェット姿で恋愛や将来への漠然とした悩みを語り合い、短期間で入れ替わっていく。互いの距離感はそれぞれで、家族でも近しい友人でもない彼らが長屋に居場所を求める姿にはどこか切なさもある。結婚式や音楽会が開かれる晴れの場である旧グッゲンハイム邸の存在感が、等身大の若者の姿を通して、よりくっきりと浮かび上がる。

 前田さんは神戸市西区出身。神戸芸術工科大で映画制作を学び、現在はロケ誘致や撮影支援をする「神戸フィルムオフィス」で働く。「神戸で生まれ育ち、神戸で映画を学び、ロケ地として神戸をみてきた」。旧グッゲンハイム邸にほれ、いつか自分の手で撮りたいと思い続けてきたという。

 予算と人員の課題は「オール神戸」の陣容で乗り切った。スタッフは神戸芸術工科大の卒業生や在学生らで、出演者も含めて全員が神戸在住か神戸にゆかりのある人たちだ。「『神戸産』の映画が、まずは神戸で上映が決まってうれしい。多くの人にみてもらいたい」と前田さん。上映する映画館が広がっていくことを願っている。(鈴木春香)

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 旧グッゲンハイム邸は、1908年ごろにイギリス人建築家の設計で建てられたとされる。複数の所有者を経て2007年に現在の管理者に買い取られ、展覧会や結婚式などの多目的スペースとして貸し出されている。ロケ地としての利用も多い。

 西宮市を拠点に自然や建物の保存活動をするNPO法人「アメニティ2000協会」の清水彬久理事長によると、阪神間は全国でも洋館建築が集積しているエリアだ。明治時代以降に著名な建築家によって設計されたものが多く、「建築的価値も高い」という。

 だが、旧グッゲンハイム邸のように保存・活用される例は少数派だ。同協会が02~07年ごろに調査した際には戦前に建てられたとみられる洋館が阪神間に約400あったが、相続や維持管理の費用などの問題もあって減少する一方だという。