元慰安婦の請求却下 韓国地裁、1月の判決と異なる判断

ソウル=鈴木拓也
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 旧日本軍慰安婦だった李容洙(イヨンス)さん(92)ら20人が日本政府に総額30億ウォン(約2億9千万円)の賠償を求めた訴訟の判決が21日、ソウル中央地裁で言い渡された。地裁は原告の訴えを認めず、請求を退けた。

 同地裁では別の裁判官が1月8日に、日本政府に対して元慰安婦や遺族ら12人への賠償を命じる判決を出しており、判断が分かれた。1月の判決確定後も日本政府に賠償を履行する意思はないことから、李さんは国際司法裁判所(ICJ)への提訴を日韓両政府に求めている。李さんは判決後、記者団に「荒唐無稽だ。ICJに判断してもらう」と話した。

 日本政府は、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場だ。裁判には、国家には他国の裁判権が及ばないとする国際法上の原則「主権免除」を理由に参加自体を拒否してきた。

 李さんらは2016年12月に提訴。日本政府は訴状の受け取りを拒否したが、地裁は19年3月に、裁判所に掲示することで被告に訴状が届いたとみなす「公示送達」の手続きを取った。審理は日本政府が出席しないまま進んだ。日本政府が訴訟不参加の理由に挙げる主権免除の適否が最大の争点となった。

 地裁は判決の中で、15年末の日韓慰安婦合意による支援について「被害者の苦痛に比べれば十分ではない」と言及。ただ、国際慣習法や韓国の判例に照らして、日本政府の主権免除は「認めざるを得ない」と判断した。また、「被害者の回復は、韓国政府が日本との外交的交渉などの努力で解決しなければならない」とも指摘した。

 原告側は、第2次大戦下のナチスドイツによる強制労働をめぐり、「訴えられた行為が国際犯罪である場合には、主権免除は適用されない」とした04年のイタリア最高裁判決を例示。慰安婦制度は国際法上、絶対に守らなければならない規範に違反しており、主権免除は適用されないと主張していた。

 また、原告側は1月の慰安婦訴訟の判決について、「(慰安婦問題を)普遍的な国際人権問題と認識し、実効性をもって被害者の権利を救済した点に相当の意味がある」と評価。今回の訴訟でも同様の判決を求めた。

 原告側の説明では、原告20人のうち9人が、15年の日韓合意に基づき元慰安婦支援事業を担うために設置された「和解・癒やし財団」から支援金を受け取っていた。また、支援団体「正義記憶連帯」の資金不正疑惑をめぐって在宅起訴された前理事長の尹美香(ユンミヒャン)被告が、19年1月に死去した元慰安婦の金福童(キムボクトン)さんの承継人として原告の1人になっており、地裁の判断が注目された。

 1月の元慰安婦訴訟の判決をめぐっては、日本政府が賠償の支払いに応じない構えのため、原告が韓国内にある日本政府の資産差し押さえを検討している。

 しかし、ソウル中央地裁は20日までに、訴訟費用確保のための日本政府の資産差し押さえを「国際法違反の恐れがある」として認めない決定をした。15年の日韓合意で日本政府が拠出した10億円を財源にした支援金などを一部の原告が受け取っていたことも、差し押さえを認めない理由に挙げた。賠償手続きでも差し押さえは認められない可能性が高いとみられている。(ソウル=鈴木拓也)