手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の第25回受賞作が決まりました。社外選考委員を務めたマンガ解説者の南信長さんの選評は次の通りです。
南信長さん(マンガ解説者)
1次選考の結果から「鬼滅の刃」と「約束のネバーランド」の一騎打ちかと思いきや、伏兵「ランド」が大逆転。隔絶された環境のユートピア(あるいはディストピア)という設定自体は珍しくないが、背景のスケールの大きさ、練られた設定に圧倒された。生老病死という普遍的なテーマを描きながら、東日本大震災以降の現代日本の課題も盛り込む構成は鮮やか。終盤にウイルスによるパニックまで描かれたのは偶然か必然か。
個人的には「鬼滅の刃」の陰に隠れた形の「約束のネバーランド」に光を当てたかった。強者ではなく力の弱い子供たちが知力と精神力で壁を乗り越える物語。「鬼滅の刃」同様、眼前の敵は鬼だが「こいつを倒せば一件落着」というラスボスは存在しない。主人公たちは理不尽な社会システムそのものを覆すために戦う。暴力より対話や駆け引きによる解決をめざす。その過程で鬼社会の権力闘争や格差問題も描かれ(それは人間社会の縮図でもある)、物語は重層的に進む。切なくハッピーなラストシーンも鮮やかに、分断を乗り越えて新しい世界を提示する同作は、まさに今の時代にふさわしい。
新生賞「葬送のフリーレン」…