ゆがんだリコールが招く危機 日本の弱い直接民主制

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聞き手・稲垣直人 聞き手・桜井泉
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 昨年、愛知県で行われた大村秀章知事のリコール解職請求)運動で署名の8割に不正が見つかった。県警も捜査に乗り出している。リコール制度の悪用は、地方自治を支える直接民主制を揺らがせかねない。前代未聞の事件から見えたものについて、2人の論者に尋ねた。

武田真一郎さん 「本来の趣旨からずれた運動」

 ――愛知県大村秀章知事に対するリコール解職請求)運動で、偽造の疑いがある署名が見つかりました。

 「民主主義の基本を破壊する極めて悪質な行為です。ただしリコールの署名は、選挙管理委員会が厳密に審査するものです。もし大量の不正があれば、すぐに発覚します。必要な署名の数から言ってもハードルは高く、お金で必要な署名を集めるのは困難でしょう。私には、リコールの基本的な仕組みを知らない者が偽造したとしか思えません」

写真・図版
武田真一郎・成蹊大教授

 ――なぜこんなことが起きたと思いますか。

 「民主主義は、選挙で首長や議員を選び、議会で物事を決めてもらう『間接民主制』と、リコールのように住民自らが住民投票で物事を決める『直接民主制』の二つの柱で成り立っています。直接民主制にはほかに、条例案などの賛否を住民に問う『発案』や、ある争点の賛否を問う『表決』もありますが、日本の法律にはこれらを実現する制度が整備されていません」

 ――どういう意味ですか?

 「発案というと、条例の制定・改廃の直接請求を指すと思う人が多いでしょうが、この請求は議会の議決に付されるだけで、住民投票で賛否を問うわけではありません。表決を実現する制度も憲法改正国民投票など限定的です。つまり、日本では欧米のように直接民主制の実践を積んでいないので、今回の事件は起きたように思います」

一定の署名が集まれば住民投票を実施すべき

 ――どういうことでしょう?

 「愛知の問題は一昨年、あいちトリエンナーレ昭和天皇を扱う作品の展示を巡り、賛否がわきおこったのが発端です。こうした特定の問題は、問題そのものの賛否を住民に問う表決の住民投票にかけるのが筋です」

 ――直接民主制のなかで、取るべき手段が違ったと?

 「そうです。『県の美術展で天皇制を扱う作品の展示を禁止すべきか』という設問の賛否を問うべきでした。そうすれば、表現の自由という問題も含め、争点が明確になったはずです。リコールは、公職に就く者が不適格か無能といった声が上がったとき行うべきものです。しかし愛知のケースは、大村知事の適性や能力の問題ではありません。その意味で、本来のリコールの趣旨からずれていました」

記事の後半では、横浜市リコール運動に取り組んだ広越由美子さんが、実現への壁の高さについて語ります。

 ――日本における表決の住民…

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