プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大(32)が24日、本拠地に帰ってくる。最後に投げたのは8年前、日本一を決めた場面だった。誰もが予想しなかった日本シリーズでの異例の2日連続登板。場内アナウンス担当の千葉マサトさんが、あの瞬間の舞台裏を語った。
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「あの時の球場は、ある意味で異常な雰囲気でした」
2013年11月3日。雨が降る仙台で行われた楽天と巨人の日本シリーズ第7戦。
この年から、楽天の1軍本拠地で場内アナウンスを担当している千葉さんは「今でも忘れない。朝のミーティングの風景から覚えている」。
あの試合も、バックネット裏のスタンドに設置された専用テントにいた。初冬に差し掛かる時期。背中や足など全身にカイロを貼って臨んだ。
シーズンでは、田中将大が前人未到の無傷の24連勝を記録した。球団は初のリーグ優勝を達成。日本シリーズではセ・リーグ覇者の巨人に3勝3敗に並ばれ、勝った方が日本一となる大一番を迎えていた。
試合前、千葉さんは楽天のベンチ入りのメンバー表にある名前を見つけ、驚いた。前日に160球を投げて完投負けした田中がいる。なぜ?
「胴上げになった時、そこにいてほしいだけなのかな、と思った。もちろん投げるとは全く想像していなかった」
試合は楽天先発の美馬学、七回から継投した新人の則本昂大が好投した。打線は牧田明久の本塁打などで小刻みに加点し、八回の攻撃に入った時点で3―0と勝ち越していた。
この時、田中がブルペンに入った、という情報が千葉さんたち裏方の元へ流れてきた。「うっそ? まさか、本当に?」。どうやら確からしい。急きょ、音響や映像の担当者間で演出方法の話し合いが始まった。
田中が登板予定の九回の守備まで、時間はほとんどない。スタッフが慌ただしく動き回る。どうすれば、この最大の見せ場を作れるのか――。意見は一致した。
「場内にいるお客さんに田中投手の登場曲を歌ってほしい」
普段なら、登場曲の一番盛り上がるタイミングを見越して選手名をコールする。加えて当時のルールでは、選手の姿をグラウンドで確認できてから、選手名をコールしなければならなかった。
しかし、今回はお客さんに登場曲を歌ってもらうため、イントロが始まる前にコールを終えないと間に合わない。
勇気のいる瞬間だった。
興奮で声が裏返らないように…