元慰安婦訴訟、逆の判断なぜ? せめぎ合う二つの潮流

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ソウル=神谷毅
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 韓国の元慰安婦訴訟でソウル中央地裁が21日に出した原告の請求却下の判決は、国家には他国の裁判権が及ばないとする国際法上の原則「主権免除」を日本政府に認めた。1月の別の元慰安婦訴訟で、同地裁は主権免除を認めずに日本政府に賠償を命じている。3カ月の間で、なぜ逆の判決が出たのか。

 昨年11月、今回の判決のための最終弁論が同地裁で開かれ、旧日本軍慰安婦だった李容洙(イヨンス)さん(92)が証人として語った。

 「時間が(私を)待ってくれるのか。もう残っていない。責任を取って!」。李さんの声が大きくなると、裁判長はそれを聞き終えたうえで「言いたいことがもっとありましたら、どうぞ」とさらに時間を取った。休憩時間や水を状況に応じて勧めるなどの配慮も怠らなかった。翌年1月13日に判決を言い渡すと述べて閉廷した。

 1月8日には、別の元慰安婦訴訟の判決が日本政府に賠償を命じた。慰安婦制度は国際法で絶対に守らなければならない規範に違反しているとの判断を示し、日本政府に主権免除は適用されないとした。主権免除を主張して裁判を認めない日本政府は控訴せず、判決は確定した。

 直後の同月11日。李さんらが原告となった訴訟の判決が2日後に迫るなか、地裁は判決言い渡しの延期を決めた。法曹や外交の関係者の間では、「日本政府に主権免除を認める判決を用意していたが、直前に正反対の判決が出たので判決を延期したのでは」との観測が流れた。

 同月18日には文在寅(ムンジェイン)大統領が記者会見で1月8日の判決について「正直、少し困惑している」と発言。2015年の日韓慰安婦合意を「両国間の公式合意」と確認した。合意に基づいて設立された「和解・癒やし財団」は、日本政府が拠出した10億円を財源に元慰安婦や遺族への支援事業に取り組んだ。しかし、文政権は元慰安婦らが納得していないとして合意を形骸化し、19年に財団を解散した経緯がある。

 今年3月末。1月判決をめぐって同地裁が、訴訟費用確保のために韓国内の日本政府の資産差し押さえは認めないと決定した。確定判決を有効としつつ、差し押さえは「国際法に違反する恐れがある」との判断を示した。さらに「慰安婦合意は最近も有効性が確認された。多くの被害者が基金から支援金を受けており、残額は日本に返還されていない」と指摘。韓国内の日本政府の資産を差し押さえた場合、「憲法上の国家安全保障、秩序維持、公共の福祉と相反する結果を招く」と懸念を示した。

 この決定は、今月20日に日韓メディアで報じられた。大手法律事務所の幹部は「地裁内で変化があり、判決も1月とは違うものが出ると直感した」と語る。

 翌21日に言い渡された判決は、国際社会の共通ルールとされる国際慣習法や韓国大法院(最高裁)の判例などを理由に日本の主権免除を認めた。さらに慰安婦合意による元慰安婦への支援について、権利救済の有効性を韓国の司法として初めて認定。問題の解決には外交努力が必要とも指摘した。前日に明らかになった決定文と考え方が重なる部分も多かった。

「司法積極主義」とは

 一連の経緯から浮かぶのは…

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