眠れない、感情ない 子どもへの性暴力、回復に長い時間

編集委員・大久保真紀
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 性暴力の子どもへの影響や子どもの心理状況について、被害者の治療に携わる精神科医で、武蔵野大教授の小西聖子さん(66)に聞いた。

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 性交がなくても、キスや抱きつきも性暴力です。子どもたちの心身を深く傷つけます。

 私は臨床の現場で、このシリーズで書かれた教師、保育士、スポーツクラブの指導者、施設職員、医者からの地位や関係性を利用した性暴力の被害者を診察したことがあります。被害者に共通するのは、被害を被害と思えるまで時間がかかるということです。

 年齢によっても違いますが、恋愛だと思い込まされたり、実は強制されているのにそう思えなかったりして、自責感が強いのも特徴です。

 治療の場に来たとき、眠れない、学校に行けない、思い出せない、感情がない、思い出すと具合が悪くなる、などと訴える人が多いですが、それらは性暴力を受けたことで生じる反応です。

 死にたくなる、自傷するというのも症状です。性暴力に伴う心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、うつと一緒に発症することも多く、また「解離」のある人は自分の感情がわからなくなっているので、衝動的な行動をとりがちです。

 そうした行動化の背景には、絶望の気持ちがあります。絶望する一番の理由は孤立。被害者には支えてくれる人の存在が必要です。

 また、SNSでだれかと知り合って性交するという行動も若い性被害者には起こります。そこには、前の体験をなかったことにしたい、成功体験として塗り替えたい、人にコントロールされ、侵害された体験を塗り替えて自分がコントロールする側になりたい、金銭を得て復讐(ふくしゅう)したい、などの気持ちが働いている。性暴力の体験を傷ついた体験として残したくないという思いがあります。

 当事者には、被害の影響として自責感が生じることや性的な行動が起こること、抱える症状が治療によってよくなることを知ってほしい。自分はどうしようもない人間だと思うことはありません。

 起こったことは消えないけれど、トラウマの症状はよくなります。苦しさが整理され、「私は悪くない」と思えるようになります。

 周りの人は、本人がどう困っているかを聞き、信じてあげてください。でも、そう簡単ではありません。支援している被害者がSNSを使ってだれかに会いに行き、性行為をしていたら、どう思いますか。それが性暴力を受けた後には起こることなのだということを知らなければ、被害者を信じ続けるのは難しいのも事実です。だから、周囲も性被害がどんな症状や行動をもたらすのかを理解することが大切です。

 学校では、最近は理解ある養護教諭が治療につなげてくれることが増え、少しずつ変わってきました。とはいえ、どうしていいかわからずに遠巻きに見ているとか、逆に大したことないと考えて放置するということが起きています。学校での性暴力は珍しくないこと、被害者がとる可能性のある行動は教員が理解して対応する必要があります。

 教師のような権力のある人が加害をした場合、生徒が抵抗しなかったとしても、被害者にはいろんな心理や恐怖が働きます。どうしていいかわからなくてニコニコすることもあれば、先生のことを悪く思ってはいけないという気持ちを持つこともあります。他の人に訴えることで先生の人生を壊してしまうことが怖いと言う人もいます。

 教員は、学校にはさまざまな子どもたちが来ていて、中には脆弱(ぜいじゃく)な子どもがいることを理解しておくべきです。加害行為があっても「いや」とはねのけることができる生徒はいるかもしれません。でも、できない子もいる。「NO」と言わなければ受け入れられたと思うのはとんでもない考えです。そうしたことを教員に教育するべきです。

 教員による性暴力は明らかになっていないものがかなりあると思います。いま刑法の改正について議論されていますが、やってはいけないことをはっきりさせておくという意味で、教員は生徒とは性交してはいけないということを法律で定めるべきだと考えます。(編集委員・大久保真紀