散らかった部屋、義母の一言 スマホに逃げ込み夜更かし

中島美鈴
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 大型連休が明けました。「新年度の疲れを取ろうと寝だめしたぞ!」という方も、明日仕事がないという解放感から、思い切り夜更かしを楽しんだ方もいらっしゃるかもしれません。計画的な夜更かしは、大人の責任として楽しめますが、仕事で次の日に早起きしなければならないのに、「ついつい」夜更かししているとしたら、これはちょっと立ち止まって考えてみるとよいでしょう。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

そもそも、夜更かしの原因は?

 このコラムでは、4月から早起きができない悩みについて、背景を下の5タイプに分けて、対処法を解説しています。

 ①「睡眠不足」タイプ

 ②「朝やることが多すぎる」タイプ

 ③「起きてもいいことがない」タイプ

 ④「もうすでに朝削れるだけ削っている」タイプ

 ⑤「ついつい夜更かし」タイプ

 今回は⑤「ついつい夜更かし」をしてしまうことについてご紹介します。

 リョウさんは、典型的なついつい夜更かしタイプです。

 娘と一緒に午後8時半には布団に入るものの、そこからずっとスマホを触り続けて、寝るのはだいたい午前1時、2時。

 一晩で5、6時間も布団でスマホをいじっている計算になります。

 リョウさんはこのスマホをいじっていた時間の事実を、スマホから告げられるたびに、ゾッとしています。ですが、どうしてもやめられません。

 友人のアヤさんとそんな夜の過ごし方の話になりました。

 アヤ「ねえ、夜だけでスマホ6時間ってさすがにすごいね。何してるの?」。

 リョウ「え、まずはSNSでしょ。でもさーっと見たら、今度は海外ドラマをみちゃうのよね。あれって1話見たら、次が気になるから、もう終わりがないの。シーズン4とかまでみちゃうとあっという間に日付が変わるしね。それから、子どもが小さいと買い物になかなか行けないから、スマホでショッピング。化粧品も服も、靴も、子どもの服も、食料品も。タイムセールとかやってると、ついついたくさん買ってしまうんだよね」。

 アヤ「わかる! もう店舗で買うより断然便利だしね」。

 リョウ「だからもう、あっという間」。

 アヤ「でもこの年齢で午前1時とか2時まで起きてると、朝がつらくない?」。

 リョウ「あはは……。だから、ほんといつもギリギリでさ。マスク生活なのをいいことにほぼすっぴんで出かけてるよ」。

 アヤ「マスク便利よね」。

 そんなたわいもない会話をした帰り道、リョウさんはふと思い出しました。

 リョウ「やばい。体操服のゼッケンを縫い付けるの忘れてた。衣替えもいいかげんしなくちゃ。ああ忙しい」。

 忙しいと口にした途端、さっきのアヤさんとの会話が頭をよぎります。

 リョウ「どうして毎日6時間もスマホには費やせるのに、ゼッケンの縫い付けを忘れるのだ」。

めんどくさいの大きな壁

 自分でもちょっとおかしくなってきました。どう考えてもアンバランスです。

 おっくうなことってどんなに時間があっても、やっぱりとりかかりたくないんですよね。

 リョウさんには、もし時間があれば、やりたいこと、やらなくちゃいけないことが、衣替えの他にもたくさんありました。

 ・毎日の食事にもう少し野菜を足したい

 ・娘に新しい上靴を買いたい

 ・季節の花を飾りたい

 ・網戸が破れているのを修理したい

 これらを無視して、リョウさんはなぜスマホばかりするのでしょう?

 答えは簡単です。「めんどくさいから」です。

 でもこの「めんどくさい」という現象は、かなり主観的です。実は「めんどくさい」にもかなりの幅があって、個人差が大きいと言われています。

 めんどうに感じずにやる気を出すには、脳の報酬系という部分が活発に働くことが必要になります。しかし、この部分が活性化しにくいのがADHDの脳だということがわかっています。

 ADHDの人の中には、日頃からぼんやりしていて、眠気を感じるという人もいます。睡眠障害との関連も指摘されていますが、もうひとつの原因として、この報酬系が活性化しにくいことから、日頃のルーチンに対してやる気を起こしにくいことも指摘されています。

 つまり、ADHDでない人が「仕方ない。朝だから起きて仕事に行こう」という時に出すやる気のエネルギーを1とすれば、それよりうんと大きなエネルギーを向けなければADHDの人は動けないということになります。

 「よいしょ!」と重い腰を上げる時のあれです。専門的には「活性化エネルギー」と呼ばれています。

 このADHDの人に見られる活性化エネルギー不足には、例外があります。

 非常に高い金銭的報酬に対しては報酬系が活発に動くこともわかっています。ADHDの人でギャンブルにのめり込む人が多いのはこのためです。日頃はなかなかやる気が起こらず退屈に感じているところに、珍しく夢中になれるものが現れるのですから、脳は大喜びしてどっぷりとハマってしまうのです。

 もしかしたらリョウさんの、長時間スマホも、なんらかの理由で脳の報酬系が働いてしまっていることが原因のひとつかもしれません。

 しかし、リョウさんはどちらかといえば、やるべきことへのやる気が起こらない(活性化エネルギーの問題)に加えて、そんなやるべきことからスマホに現実逃避して、何も感じないようにしていたようです。

 最近、夫の体重が増えたことに関して、リョウさんは義母からこんなことを言われたそうです。

 義母「最近あの子太ってきたと思わない? リョウさんもお忙しいでしょうけど、もう少し健康的な食事にしてやってくれない?」。

 リョウさんは、その時に夫が太ったことをすべて自分の食事管理がなっていないせいにされたことや、食事を作るのはなぜ自分だと決めつけられてしまうんだという憤りを感じていました。

 でももやもやしたまま何も言い返せませんでした。

日中のもやもや、夜までもやもや

 こうしたもやもやを抱え、夫に話すこともないまま、1日が終わっていくのです。それでも自分なりに夕食作りをがんばってみたけれど、それに没頭すると娘の相手をする時間が少なくなって、娘はぶーぶー言いました。

 機嫌の悪い娘をなだめていると、畳まれずに山積みになっている洗濯物が見えます。こんなふうで1日の終わりにはリョウさんはどっと疲れて、ストレスフルなのです。

 娘を寝かしつけながら、リョウさんは全力でスマホの中に逃げ込むのです。

 散らかった部屋からも、義母からの指摘でたまったもやもやからも。

 みなさん、おわかりでしょうか。

 ついつい夜更かしの背景には、こうした日中に抱えたモヤモヤがあるのかもしれません。もちろん、ドラマもショッピングも手軽に味わえる楽しいものです。しかし、本当にこの夜にリョウさんが欲しいものは、もやもやの解消です。

 もやもやは寝付きの悪さや、早すぎる時間帯の気分の悪い目覚め(そしてその後もいろんな心配事が頭を駆け巡り眠れない)に影響します。

 こうした時間をやりすごすためにスマホは絶好のアイテムというわけです。

 リョウさんは、このモヤモヤをアヤさんに相談してみました。

 アヤさんから「そんなのだんなと遠慮せずに話しなよ。同じ食事でもリョウは太ってるわけじゃないんだし。旦那の生活習慣のせいなんじゃない?」と言われ、近所のスポーツジムを教えてもらえました。

 気持ちを吐き出すことで、鬱積(うっせき)してかたくなっていた心が解放されていきました。

 不思議とこうして話すことで、夜のスマホ時間は短くなっていきました。ついつい夜更かししている自分に気づいたら、ぜひ心の中をのぞいてみましょう。

 ◇時間管理についてさらに学びたい方のための参考図書:「ADHDタイプの大人のための時間管理ワークブック」(中島美鈴・稲田尚子、星和書店)https://www.amazon.co.jp/dp/4791109473/別ウインドウで開きます(中島美鈴)

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。