カタカナ英語で何が悪い 英語界の変わり者が叙勲受章

西田有里
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 日本人らしいカタカナ英語、そう、「ニホン英語」でいいじゃないか。

 半世紀にわたって、日本の英語教育にあらがってきた「変わり者」が、春の叙勲で瑞宝中綬章を受章した。

 兵庫県立大名誉教授(言語教育学)の末延岑生(みねお)さん(80)=神戸市長田区。日本人が英語のネイティブスピーカーをまねする必要はないと、訴え続けてきた。

 「ニホン英語」のお手本は、父だった。

 三菱重工業に勤め、独学のカタカナ英語で堂々と欧米人と鉄を取引する姿を間近で見てきた。「英語の話し方には、その国それぞれの癖があるんや」。父から教わった。

 そんな環境だから、小学生の頃から自然と「ニホン英語」を実践してきた。

 自宅に泊まりに来た外国人に「まだ帰らないで」と伝えたくて、「ウェン ドゥー ユー ゴー ホーム?(いつ帰るの)」。お土産がまた欲しくて「ネクスト! ネクスト!(次も)」とせがんだ。

 単語を並べれば、つたなくても伝わる。英語が大好きだった。

 ところが中学に入ると、「その変な英語、どこで習ったんや」。英語教師から笑われた。

 英米の発音をまねるよう教えられた。「なぜ自分の自然な言葉で話したらいけないのか。これまで通じたのに」。テストでは、文の最後にピリオドをつけ忘れただけで、0点にされた。

 英語の授業は大嫌いだった。

 「キザな英語なんてしゃべらんでも通じるんや」。関西学院大学の大学院を出た後、教育現場を変えたくて英語教師になった。

 でも、なかなか難しかった。

 日本人らしい発音を直したり、細かい文法の間違いを許さなかったり。そんな英語教育は「子どもたちの言葉を摘み、恐怖心を植え付ける」と感じてはいたが……。自分も知らぬ間に英米風の英語を話すようになっていた。

 25歳の頃、世界一周旅行に出た。

 インドやエジプトフランス……。英米のまねではなく、その国なまりの英語を耳にした。ドイツ人にはこう言われた。「日本人なのにアメリカ人のような英語を話すのはなぜ。わざわざまねをするのは馬鹿だ」。

 恥ずかしくなった。

 帰国後、言葉の起源と「ニホン英語」の研究を始めた。

 1969年から神戸商科大(現・兵庫県立大)で教え、これまで執筆してきた論文は100本近く。研究では、「ニホン英語」の方が、英米のまねをした英語より相手がどこの国の人であっても伝わるとも分かったという。

 「『ニホン英語』はかっこよくはないのかもしれない。けど、堂々と話せばむしろ品がある」

 他の研究者から変わり者扱いされても、お構いなし。提唱し続けて、気づけば50年ほど経っていた。

 「言葉は人と人をつなぐもの。自分の言葉で、相手のことを思いながら伝わるように話すことが大事」。日本の英語教育が変わり、自信を持って「ニホン英語」を話せる社会に。それがゴールという思いは変わらない。

 「僕みたいに、他の英語の先生たちと対峙(たいじ)してきた『異端児』が受章するなんて、ちょっと不思議。あ、でも、僕からすれば他の先生が異端なんだけどね」(西田有里)