再稼働で「3原則を確認」 福井県知事、老朽原発めぐり

山田健悟、波多野陽、佐藤常敬、川辺真改
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 福井県内の老朽原発3基の再稼働に同意した杉本達治知事は28日、県庁での記者会見で理由を説明した。「安全の確保」「立地地域の理解と同意」「地域の恒久的福祉の実現」など、県が以前から重視してきた点で前進があったとの考えを示した。そのうえで、県民の不安を念頭に、再稼働後も国や関西電力の監視を続けると強調した。

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 知事の主な発言とやりとりは次の通り。

 知事 安全確保、立地地域の理解と同意、地域の恒久的福祉の実現という、県の原子力行政3原則に基づいてひとつひとつ丁寧に確認してきた。

 県の原子力安全専門委員会に5年にわたる14回の審議や現場の確認をしてもらった。関西電力の社長自ら先頭に立って、プラントの安全性を確保していく覚悟も確認した。避難計画についても、実効性を高める活動をしていきたい。

 県主催の説明会を開くなど、一定程度県民の理解も進んできた。今後も、国と事業者は、原発の必要性や重要性、安全性について、しっかり国民に対して分かりやすく広報してほしい。

 27日には梶山経産相が、2050年のカーボンニュートラルに向けて、将来的にも原子力を活用すると表明した。国の一定の方向性が示されたと考えている。

 40年超運転にあたって、国は、1発電所あたり25億円を最高とする交付金や、国、事業者、立地地域の3者で作る会議の創設を明言した。立地地域に対する恒久的福祉の実現も一定程度進んだと考えている。

 これらの点も踏まえ、美浜3号機、高浜1、2号機の再稼働について、美浜町、高浜町、県議会の意見、国と事業者から示された内容を確認し、総合的に勘案し、再稼働に同意することにした。

 不安の声があるのは承知している。(運転)再開後も、安全神話に陥ることなく、国、事業者に対して常に確認をする。県民のご理解、ご協力をお願いする。

 ――判断にあたり、最も重視した点は

 知事 一番大きいのは、志という意味で、国が原発をどうしていくのか、明言すること。それとともに、甲乙つけがたいと思っているが、安全が第一。

 ――新設される交付金の評価は

 知事 過去の例を見ると、それなりに判断いただいたと一定の評価をした。

 ――急いだ印象がある

 知事 今年2月、国から再稼働への協力を求められ、立地の両町からも早い判断を求められた。県議会の考え方も示され、県の原子力安全専門委員会にも安全性を確認してもらった。確認すべきことを一つずつやってきたので、判断をいたずらに延ばす必要はない。

 ――国内初の40年超原発の再稼働にゴーサインを出す責任は

 知事 元々原発は法律の規定があり、事業者が国の規制を受けながら運転をするもの。その中で、県民益を最大化することが私の責任。また、国や事業者が安全に運転をすることを常に確認するのが私の責任だ。

 ――(関電や国の)決意や覚悟など、精神論の部分を評価しているように思う。危ういのではないか

 知事 (決意や覚悟は)とても大切なのではないか。数字を挙げてきたとしても、それが次にどうつながるのか、責任者がおなかにもってやっていただくのが大事だ。

 ――運転開始から60年で廃炉になる見通し。立地自治体の将来は

 知事 一つは嶺南Eコースト計画。また、国が主体となる共創会議。ここで国、関電が当事者となり、新しいことを考えることを望んでいる。第一は、原子力のリサイクルビジネス。もしくは、もんじゅの後継になる研究開発炉。梶山経産相からも積極的に協力すると言ってもらった。

 ――国や関電と色々約束がある。約束を破られたらどうする

 知事 ほごにされたときの想定はしていない。国とも関電とも常にコミュニケーションをとっているので、監視や提言とか、色々な形をとっていきたい。

 ――リプレース(建て替え)についての考えは

 知事 リプレースや新増設は国の原子力政策なので、国に方針を示してほしい。それがないと、立地地域がどうなるのか、大きな方針が持てない。

 ――高経年化への不安はあるか

 知事 一般的な話なら、古くなると壊れやすい、これを不安として感じるのはある。そのため規制庁があり、基準を作り、許認可をするという仕組みが整っている。リスクは極小化されている。安全神話に陥らずにやることは、それなりに信用してもいいと思う。

地元町長ら「安堵している」

 すでに再稼働に同意していた地元の町長らは杉本知事の同意表明を歓迎した。

 高浜町の野瀬豊町長は「人口1万人ほどの町にとって原発は大きな存在で、安堵(あんど)している。温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す国の方針が示され、これから少しずつ、原発があることが誇りに思える環境になっていく」と語った。

 ただ、中間貯蔵施設の提示が先送りされたことに「まずは県外で最善を尽くすことが重要」とした上で、「決まらなければ、燃料が永遠に地元に残る恐れがある。何がほかに現実的な選択肢なのか、頭の隅に置いておくことが必要だ」と続けた。

 美浜町の戸嶋秀樹町長も知事の判断を評価しつつ、国には「前面に立って原発の必要性と安全性を知ってもらえる取り組みを進めてほしい」と注文を付けた。

 ただ、「美浜3号機の運転を延長しても、16年で原子炉は消える。企業誘致や農林水産業の振興で町の産業構造を複層化したい」と先を見据えた。

 全国原子力発電所所在市町村協議会長の渕上隆信・敦賀市長は「原子力を持続的に活用していくために必要な取り組みを、政府一体となって進めてほしい」とのコメントを出した。

「やっとだが、事故のないように」 複雑な地元住民の思い

 期待、注文、不安――。原発を抱える地元住民らも知事の同意を様々に受け止めた。

 「やっともとの高浜に戻れる。ホッとした。原発は町の基幹産業だから」。高浜原発がある福井県高浜町の町商工会の田中康隆会長(65)はいう。会員企業約300の7割近くは小売りサービス業。田中さんも燃料小売業を営む。

 原発は約1年ごとに1回運転を止めて、3カ月ほど定期検査する。1基の定検に入る作業員は約3千人で、期間中に宿泊や飲食など、町内に及ぼす影響は大きい。

 2011年の東京電力福島第一原発事故後、高浜原発の3、4号機は16年から再稼働したが、1、2号機は止まったままだ。田中さんは「四つすべて動くことで、多くの企業が安定した収益を見込める」と期待する。

 美浜は15年に1、2号機の廃炉が決まり、3号機は11年5月から止まっている。美浜、若狭の2町の企業が加盟するわかさ東商工会の国川清会長(71)も「原発が動かないと『血液』が回らない。やっと、という思いだ」と話す。ただ、注文もある。「10年間車庫に入れっぱなしの車をいきなり運転するようなもの。事故のないよう、慎重に慎重を重ねて進めてほしい」

 3号機は再稼働するが、運転延長は1回限りで、約16年後には廃炉になる。町がどんな姿になるか、見通せない。国のエネルギー基本計画に原発がどう位置づけられるか、注視する。

 美浜原発から約1キロ離れた竹波地区の区長で、すし屋を営む沢田忠義さん(61)は「止まっていても、動いていても目の前にあるのが原発。再稼働にもろ手を挙げて賛成ではないが、安全対策工事などに取り組む関電の社員の姿を間近で見てきたから反対はしない」。そんな沢田さんの懸念は使用済み核燃料だ。「搬出先が決まらず、ここに置いておこうとならないか。原発を動かすならどこにどうする、と後始末を並行してやらないと」

4月以降の知事と県議会の主な動き

6日  老朽原発再稼働をめぐり、国が1発電所につき25億円の新たな交付金を県に提示。知事が県議会議長と面談し、議論再開を要請

9日  県原子力安全専門委員会が安全対策を評価する内容の報告書案を大筋で了承

14日 県議会が美浜3号機を視察

15日 県議会が高浜1、2号機を視察

19日 県議会全員協議会。国や関電の担当者が再稼働にあたってのそれぞれの取り組みを説明

21日 県議会全員協議会。最大会派の県会自民党が知事に判断一任を表明

22日 知事が県原子力安全専門委員会から「必要な安全対策が講じられている」とする報告書を受け取る

23日 臨時議会。県会自民党が再稼働を念頭にした意見書を提案し、賛成多数で可決。再稼働に絡む請願60件も審査。慎重な議論を求めたり、反対を訴えたりした59件が不採択、前向きな1件が採択

24日 知事が高浜1、2号機、美浜3号機を視察

27日 知事が梶山弘志経済産業相、関電の森本孝社長とオンラインで面談

28日 知事が再稼働に同意を表明(山田健悟、波多野陽、佐藤常敬、川辺真改)