「反出生主義」への共感、背景は 森岡正博さんに聞く

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聞き手・山本悠理
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 人間の出生を否定する「反出生主義」という考え方が、注目を集めている。この数年、国内でも関連書籍の発表が続き、雑誌で特集が組まれるようになった。全ての人間は生まれるべきではない――。その言葉が人々の共感を呼ぶ背後にあるものとは。反出生主義をいち早く国内に紹介した早稲田大学森岡正博教授(現代哲学)に聞いた。

――反出生主義とはどのようなものですか。

 「人間はこの世に生まれないほうが良い」という出生を否定する思想自体ははるか昔、古代ギリシャ古代インドの時代から2千年にわたって脈々と続いてきた。それを建物の1階部分として、20世紀になってから「全ての人間は子どもを生まないほうが良い」という反生殖主義の要素が上に加わった。幾つかの類型はあるが、現在の反出生主義はこの2階建ての構造になっていると考えると分かりやすい。

――「2階」部分が付け加わった理由は。

 避妊の方法が具体化したのが大きい。それまでただ禁欲するしかなかったのが、20世紀になると避妊具が普及し、子どもを生まないということを考えやすくなった。

 宗教の権威が弱まってきたこともある。子どもは「天から授かる」のであり神の世界によるものであったのが、近代化、脱宗教化が進んだことで、生むか否かは親たちが決めるものと考える人々が増えた。

 1970年前後に、地球環境問題という意識が出てきたことも追い風になった。環境破壊の深刻さを目の当たりにし、「人間は地球のがん細胞であり、滅びるべきだ」との考え方が説得力を持つようになったと言える。

 ――近年、反出生主義は広がりを見せています。

 2006年、(南アフリカの哲学者)デイヴィッド・ベネターの著書『Better Never to Have Been』が発表された。同年に、ベルギーのテオフィル・ド・ジローという作家が、子どもを生むことは親による子への権利侵害だとする内容を本にまとめた。これらが契機になり、主に英語圏のネット上で反出生主義のグループが立ち上がり、影響力を増していった。17年にはチェコで初めて反出生主義に的を絞ったと思われる学会が開かれ、昨年には「反出生主義インターナショナル(Antinatalism International)」という団体が設立された。

 国内の状況を見てみると、17年にベネターの本が翻訳され(『生まれてこないほうが良かった』小島和男、田村宜義訳 すずさわ書店)、一昨年に雑誌「現代思想」で特集が組まれたことなどが大きかった。ここ最近、反出生主義が一気に芽吹いた印象だ。

 ――なぜ、現代の人々に広く受け入れられているのでしょうか。

 インターネット、SNSの普…

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