マスクなし、なじみ客「急いで金を」 違和感に詐欺確信

林知聡
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 銀行の窓口で出金や振り込みの処理を担う。高額の場合、用途を確認することになっているが、静岡銀行大船支店=神奈川県鎌倉市=で働く高野やよいさん(45)は、心が折れそうになることが何度かあった。

 「自分の金なのになんで使い道を言わないといけないんだ!」

 「早く手続きしろよ!」

 たいていの客はいい顔をしない。それでも、「お客さまの資産を犯罪から守ることも大事な仕事なんだ」。自分に言い聞かせ、声を掛け続けてきた。

 その日は雨が降っていた。なじみの男性客が出金伝票を握りしめ、窓口に駆け寄ってきた。

 「急いでお金を下ろしたいんだ」

 80代でいつもは息子と車で来店するのに、ひとりでバイク用のヘルメットを抱えたまま。マスクも着けていなかったが、「急いで来たんだ。忘れたよ」。高野さんは違和感をおぼえた。

 「今日はどうされました?」。いつものように笑顔で問いかけた。すると男性は「お金が必要になったんだ」としきりに繰り返す。出金伝票には約300万円と書かれていた。聞くと、再び現金が戻るので、翌日改めて入金するという。

 「詐欺だ」。そう確信した高野さんは、警察に通報するよう上司に伝えた。以前、男性が家族で来店した際に息子の電話番号を控えており、そちらにも連絡を入れてもらった。駆けつけた警察官と一緒に、男性は銀行を後にした。

 この支店で窓口業務を担当して2年2カ月。警察に通報したこともあったが、詐欺ではなかった。「今回も詐欺じゃなかったかな。男性は大丈夫だったかな」。気になって仕事が手に着かなかった。銀行の窓口が閉まる午後3時前、警察から連絡が入った。男性宅に孫を名乗る男から「仕事の損失を補うために300万円が必要」と電話があったが、調べるとそのような事実はない。特殊詐欺だった。被害がなく、とにかくほっとした。

 翌日、男性と息子が来店した。「父のお金を守ってくれてありがとう」。息子から感謝を告げられた。神奈川県警大船署からは4月27日、感謝状が贈られた。

 県警が認知した特殊詐欺のうち、未然に被害を抑えられたのは223件。その約3割が金融機関によるものだった。「日々やってきたことは間違っていなかったんだ」と高野さん。「これからもお客様の変化に気づける、寄り添った対応をしていきたい」と話した。(林知聡)