エスカレーター歩行禁止を条例化 あなたは立ち止まる?

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鈴木峻
【動画】埼玉県で成立したエスカレーター上の歩行を禁止する条例が可決されました。転落事故は減少するのでしょうか。動画で解説します/取材・撮影=鈴木峻・竹谷俊之、イラスト=花岡紗季
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 危険ですので駆け上がったり、駆け下りたりしないようにお願いします――。エスカレーターで繰り返し流れるアナウンスをよそに、横を急いですり抜ける人のバッグや体などが接触して、ヒヤッとした経験はありませんか。

 埼玉県議会で3月、エスカレーターでは走ったり歩いたりせず、立ち止まって乗ることを利用者に義務づける全国初の条例が成立し話題になりました。転落事故を減らすのが目的ですが、長い年月をかけて世の中に根付いた習慣を改めるのは容易ではありません。歩行禁止の動きは定着するのでしょうか。条例制定の背景を解説します。

 埼玉県議会の2月定例会。最終日の3月26日、自民党議員団が提出した「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例案」が、賛成多数で可決された。▽利用者は立ち止まって乗ること▽利用者が止まって乗るよう、管理者が周知すること▽知事が必要と認めれば指導や勧告ができることなどを定め、10月1日に施行される。

 提出した自民党議員団の中屋敷慎一政調会長は「今までは呼び掛け中心だったが法的根拠ができた」と意義を強調する。小さい子を連れた母親や高齢者からは歓迎する声があったが、「歩く権利を奪うのか」という批判も寄せられたという。

 委員会審議では、別会派から努力義務にとどめるべきだという修正案が出されたが、否決された。中屋敷氏は「努力義務では今までと変わらない。より強く『歩いてはダメ』と示すことができる」と話す。

 これまでも、県はポスターや公式SNSで、歩かないよう呼び掛けてきた。県消費生活課は、施行までにより強い周知策を検討するという。エスカレーター管理者への働きかけもするため、対象の施設や事業者数を調べることから始めるとしている。

 日本エレベーター協会によると、2018年1月から19年12月までに発生したエスカレーター上での事故は1550件。歩いたり手すりを持たなかったりして転ぶなど「乗り方不良」によるものは805件で、全体の半数以上を占めた。

罰則なし 効果疑問視の声も

 条例成立後の4月、さいたま市のJR大宮駅で取材すると、これまで通りエスカレーターの右側を駆け上がる人の姿があった。近くを歩いていた22歳の女性は「安全面的にすごく良い。急ぐ人は時間に余裕持って」と、条例を歓迎した。普段歩くこともあるという47歳の女性は「急ぎたい人は階段を使うしかない」と、冷静に受け止めた。

 一方、効果を疑問視する声もあった。22歳の男性会社員は「立ち止まるのは良いと思うが、片側を歩くのが常識になってしまっている」。70代の男性は「罰則がなければ効果はないのでは。事故が起きて大きく報道されないと広まらない」と話した。条例自体を知らない人もいた。

 文化人類学者でエスカレーターの歴史に詳しい斗鬼正一・江戸川大学名誉教授は「埼玉だけの条例で罰則もなく、あまり実効性はないだろう」と指摘する。マナーは上からの号令で植え付けるものではないとし、「実効性がないくらいがちょうど良い。意識が広まるきっかけになればいい」と話す。

 そもそも、なぜ片側を空ける…

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