がん「だけ」死滅、光免疫療法 開発の道程と治療のいま

有料会員記事

聞き手 編集委員・辻外記子 熊井洋美
[PR]

 「光免疫療法」はがんだけを狙い撃ちする新たな治療法です。国内20施設で、保険による治療が受けられます。いまはまだごく一部のがんが対象ですが、どのように開発され、どんな治療なのでしょうか。

 光免疫療法の開発者で米国立保健研究所(NIH)のがん研究所主任研究員、小林久隆さん(59)にお話を聞きました。

小林 久隆さん 略歴

こばやし・ひさたか 1961年兵庫県生まれ。87年京都大医学部卒。95年京都大大学院を修了し渡米、NIH研究員に。98年に帰国し京大医学部助手を経て2001年に再渡米、NIHの国立がん研究所(NCI)に勤務。05年から主任研究員。21年1月、「がんを瞬時に破壊する 光免疫療法 身体にやさしい新治療が医療を変える」(光文社新書)を出版。

世界初、新薬承認

 ――従来の治療が効かなくなった頭頸部(とうけいぶ)のがん患者向けの新薬に公的医療保険が適用されました。

 米国で研究をしてつくったもので、アメリカでの承認が先かなと思っていました。

 日本人のためにまず、使われることになったことは素直にうれしい。

 患者さんの数はまだわずかですが、「治った」と喜んでもらえるのが一番の喜びです。

 ――30年越しの研究でした。

 「がんだけを死滅できないか」と考え始めたのはまだ大学生のころです。

 たんぱく質の一種で、体内に入った病原体などの異物にあたる「抗原」にくっつく性質があるのが「抗体」です。

 抗体を使えば、がんの治療も簡単にできると思っていて、こんなに長くかかるとは思っていませんでした。

 放射線診断・治療を専門とする臨床医になったころから、「手術」「放射線」「化学療法」の3治療が、がん治療の中心でした。

 しかし放射線治療の多くの場合、照射すると正常の細胞も含めて、「焼け野原」になってしまう。

 従来のがん治療は、がん細胞だけでなく、体を防御する免疫力を落としてしまうという大きな矛盾を抱えているのです。

 「がんだけ」を実現するため、失敗と工夫を重ねた30年超。ある意味、放射線科医が放射線を捨てたんです。

がんがあるところで「毒」に変化させる

 ――開発途中に限界を感じたこともありましたか。

 抗体に何かをつけて体内に入れれば、がん細胞に到達すると見当はついていました。

 数々の薬や放射線同位元素などで試しました。しかし薬はどうしてもがん細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えてしまう。使う量の限界というネックがありました。

 2004年ごろに発想を変えました。「がんを殺す毒を入れるのでなく、がんのところでだけ毒に変身させればいい」

 がん細胞のところで「毒」に変わるトリガーが必要になります。何がいいか? トリガーが毒になっては意味がない、と発想は少しずつ変わっていきました。

 体に無害な光を使うことを決め、光に反応して細胞を殺せる化学物質を探すことが次の目標になりました。ついに09年、「IR700」を見つけました。

 ――渡米し、ご苦労もありま…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。