埼玉・川越出身の歌手、母に歌う姿をとアルバム

佐藤太郎
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 母親の介護のために歌を歌うことをあきらめかけた埼玉県川越市出身の歌手朝川ひろこさん(55)が、アルバム「こころのふるさと」(税込み3300円)を発売した。認知症の実母と暮らしながら「私と同じ立場にいる人たちにもこの歌を届けたい」と、マイクの前に立った。

 朝川さんは1985年に日本コロムビアからJR(当時の国鉄)のイメージソング「緑の詩集」でデビュー。澄み切った歌声で「セーラームーンS」「カービィ!」など多くのアニメソングを歌ってきた。

 2019年、鶴ケ島市で一人暮らしをしていた母の法子さん(85)が転倒して腰の骨を折ったと兄から知らせを受けた。デビューからずっと東京暮らし。実家には年に2回戻る程度で、法子さんも不自由なく一人で暮らしていた。日常生活ができなくなった母のために同居を決めた。

 そんな時に30年来の付き合いがある音楽プロデューサー本地大輔さん(57)と3年ぶりに会った。実家の事情とともに歌の世界から身を引くことを伝えた。すると、本地さんから「歌う姿を見せることがお母さんのためになる。歌わなきゃ」と励まされた。客席やスタジオで朝川さんに拍手を送っている法子さんの元気な姿を本地さんも見てきたからだった。

 背中を押されるように、久しぶりのアルバム制作が決まった。鶴ケ島市に戻ってから、本格的にトレーニングを再開。しかし、そのころから、法子さんが何度も同じことを聞いてくるといった、今までにない行動が目立ち始めた。病院に行くと、初期の「アルツハイマー認知症」と診断された。

 介護の日々は「きれいごとでは済まされない。親子げんかもしょっちゅう」と朝川さんは言う。寝不足状態が続き、本地さんも体調を心配するほどだった。それでも歌が歌える希望を胸に、1年間のトレーニングを積み、レコーディングに臨んだ。選曲も「お母さんこの曲知ってる?」とやりとりしながら作った。法子さんは娘の録音に、7時間も立ち会った。

 童謡「赤とんぼ」を含む全15曲のアルバムを聴いた法子さんは「昔の軽い歌い方から安心して聴ける歌い方になった」と話す。朝川さんは「大事な母と、私のように介護にあたる人たちに少しでも安らぎの時間を送ることができたらうれしい」と話している。朝川さんの曲の一部は、本地さんが代表取締役を務める音楽会社「アルソンデ」(東京都渋谷区)のホームページ(https://www.alsonde.com/別ウインドウで開きます)で聴ける。問い合わせは同社(03・3442・1009)。(佐藤太郎)