「救済を」水俣病公式確認から65年

堀越理菜 屋代良樹 奥正光 長妻昭明
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 【熊本】水俣病が公式に確認されて1日で65年を迎えた。水俣市内では、水銀汚染によって犠牲になった人たちに祈りを捧げる集いがあった。「被害は終わっていない」「国は早急に救済すべきだ」――。時を経ても、患者やその家族の苦しみは、なお続いている。

もう二度と 犠牲者に誓う

 例年5月1日に環境相らが参列して営まれてきた犠牲者慰霊式が中止されたことに伴い、水俣病患者らはこの日、それぞれの場所で静かに祈りを捧げた。

 「水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会」代表で胎児性患者の松永幸一郎さん(57)らは水俣市中心部にある同会の事務所で午後1時半のサイレンに合わせて黙禱(もくとう)した。

 松永さんは電動車いすで訪れ、赤い花を、亡くなった患者の写真の前に手向けた。県内外の小中学校で体験を語ってきたことを振り返り、「水俣病が二度と繰り返されないよう、子供たちに事実を知ってもらいたい」と話した。

 胎児性患者の永本賢二さん(61)は昨年、母マサエさんを亡くした。「65年たってもまだ闘っている患者がいるし、亡くなった人たちのことも忘れてほしくない」。水俣病患者らが受けてきた差別が、新型コロナウイルスの感染者らに繰り返されないよう、語り部として活動していく決意を新たにした。

 慰霊式の実行委員長を務める水俣病資料館語り部の会会長の緒方正実さん(63)は、故・川本輝夫さんの長女の上野真実子さん(59)らと「水俣病慰霊の碑」を訪れ、静かに手を合わせた。犠牲になった祖父への思いも込めて、誓った。「水俣病が一日も早く解決につながるよう、被害にあった者として、努力するからね」(堀越理菜、屋代良樹、奥正光)

「健康被害ない世界 実現向け取り組む」 小泉環境相「祈りの言葉」

 中止となった慰霊式に寄せられた関係者の「祈りの言葉」も1日、水俣市のホームページで公表された。

 小泉進次郎環境相は「政府を代表して水俣病の拡大を防げなかったことを、改めておわび申し上げます」と謝罪。「国内では水銀使用量は(1960年代の)500分の1まで減少しました。引き続き、過去の経験と教訓を世界に発信し、水銀による環境汚染や健康被害のない世界の実現に向けて取り組んでまいります」と決意を述べた。

 チッソの木庭竜一社長は「早期の収益回復と持続的な経営基盤の確立に努め、患者の皆様に対する補償責任の完遂と地域社会の繁栄・発展に貢献してまいります」とした。

 蒲島郁夫知事は「今年1月、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるため、県独自の緊急事態宣言を発令しました。私が国の発令を待たずに、決断をしたのは水俣病の教訓があったからです。教訓を県のあらゆる施策に生かし続けていく」と誓った。(長妻昭明)

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