東大生が愛した書店、90年の歴史に幕「やり尽くした」

本間ほのみ
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 東京都文京区本郷で約90年続いた古書店「大学堂書店」が4月末で閉店した。東京大学の近くにあり、世界的な博物学者、南方熊楠(みなかたくまぐす、1867~1941)ともつながりがあったほか、たくさんの学生や著名人に愛されてきた老舗だった。閉店の知らせを聞いて遠方からもファンが駆けつけ、別れを惜しんだ。

 「長い間お世話になりました」「ありがとうございます」。客とカウンター越しに朗らかに話すのは店主の横川泰一さん(84)。妻光枝さん(78)と二人で書店を切り盛りしてきた。60平方メートルほどの店内に、2万冊の本が並んでいた。

 最後の開店日となった4月30日は朝から客足が絶えず、「寂しくなる」「閉店を延長してほしい」と惜しむ声が届いた。「店をやっている時は売れない、売れないとばかり思っていたけど、長くやってこられたのはみなさんのおかげだったんだなって気づきました。もう1年くらいやりたくなっちゃう」と笑った。

 書店は32(昭和7)年、横川さんの父精一さんが始めた。当時は東大の正門近くにあった。周辺の古書店が法律書や医学書など専門書をそろえる中、文庫本や雑誌、画集など幅広い分野の本を扱った。

 精一さんは和歌山県田辺市に住んでいた熊楠の弟子の一人とつながりがあった縁で、熊楠本人から頼まれて本を探し、送ったこともあった。やりとりした手紙も残っており、店には熊楠が精一さんに宛てた手紙が飾られていた。

 東大正門近くに店があったが、2003年ごろ、マンション建設のために取り壊された。残っていたのは1987年に2店舗目としてオープンした店だった。横川さんは27歳の時に店で働き始め、60年近くが経った。横川さんも光枝さんも高齢になった。「2人が元気なうちに片付けないと迷惑がかかるから」。2020年の東京五輪が終わったらやめようと思っていたが、延期に。ここ20年、インターネット販売の普及で売り上げが落ちていたところに、コロナ禍でさらに客足が遠のいた。

 閉店を決めると同業者がツイッターでその情報を拡散。関西や九州からも客が駆けつけた。東大の卒業生も来たという。

 本を通して訪れた人と雑談を交わすのが楽しかった。ネットで買う人が多い中、人と人とのつながりにこだわり、店に立ち続けた。「小さくても続ければ良いことがある。自分が選んだ本を買ってもらったり、こんな本があったんだと喜んでもらったり。古本屋みょうりに尽きます。もう、やり尽くしたかな」。(本間ほのみ)