新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないインドからの入国を禁止したオーストラリアで、政府の対応に批判が高まっている。海外からの感染の広がりを防ぐ「水際対策」は支持を集めてきたが、感染が心配で帰国しようとする自国民さえ刑務所に入れる、という措置だからだ。足止めされているインド系の豪州人は失望感を隠さない。(シドニー=小暮哲夫)
インドからのフライト、受け入れ停止
インド・ニューデリーに滞在中のサニー・ジョウラさん(49)は、豪州へ帰国できないまま10カ月になる。
メルボルンからニューデリーに飛んだのは昨年5月下旬。豪州の永住者でインドに一時帰国していた両親のうち、父のジャグジットさんが体調を崩し、重篤な状態になったのだ。豪政府は昨年3月以来、自国民の海外渡航を認めておらず、例外的な出国を申請して認められた。インド到着後に求められたホテルと自宅での14日間の隔離中の6月初め、77歳の父は病院で他界。最期を見届けられなかった。
残された母ダルシャンさん(72)も、糖尿病や甲状腺疾患などの持病を抱える。いっしょに豪州へ帰国しようと、7月10日の便を予約した。だが、メルボルンで「第2波」が起き、州政府は感染封じ込めに集中するため、国際便の受け入れを停止。予約した便も欠航になった。
その後も豪政府の入境規制で帰国できる人数に限りがあるなか、何とか確保したのが、今年4月28日にデリーを発ち、羽田経由でシドニーに入る日本航空の便だった。だが、前日に豪政府がインドからの直行便の受け入れ停止を発表。旅行会社から「経由便も搭乗できない」と連絡があった。
2人分の航空券に計1万豪ドル(約84万円)も払っていた。払い戻しができるかどうかわからない。そのショックに追い打ちをかけるように豪政府は今月1日、直前の14日間にインドにいた人の入国を禁じ、違反者に最大で禁錮5年と6万6600豪ドル(約560万円)の罰金を科すと発表した。
ジョウラさんのようにインドに一時滞在中の豪州国民や永住者たちは現在、約9千人いる。うち650人が、ダルシャンさんのように感染のリスクが高い脆弱(ぜいじゃく)な人とされる。
ジョウラさんは電話取材に「政府にはとても失望した。思いやりのある対応を望む」と語った。1995年に学生として豪州に来て、2001年に豪国籍を得た。インドは二重国籍を認めておらず、このときインド国籍を放棄した。
ニューデリーの近所でも感染者が相次いでいるという。医療態勢が逼迫(ひっぱく)するインドで、メルボルンに残した妻子とも会えないまま、母や自身が感染する心配も募る。
豪政府は15日に今回の措置を続けるかどうかを決めるが、「むしろ、政府として帰国便を手配し、(入国後の)隔離用の施設を拡充するなど自国民を支援する方法は多い」と訴える。
スクラジ・シンさん(36)は昨年2月、結婚するために実家のあるインド北西部パンジャブ州の村に戻って以来、自宅のある豪北東部ケアンズ近郊に帰れないままだ。
昨年末までに予約した帰国便…
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