人間ドック受けない方が健康のため?利益より害大きく 

大脇幸志郎
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 5月の連休を毎年楽しみにしていた方も、今年は巣ごもりだったかもしれませんね。5月と言えば会社の健康診断も多い時期で、遊びには行けなくても健康診断はあるとなると、なんとも息苦しい気持ちになりそうです。筆者の父が昔、「健康診断に行くと何か見つかるから」と言って逃げ回っていたのを思い出します。

 この連載は、医学知識を横目で見つつ、ちょっと不健康な生活を小声で応援します。

 ちょっと不健康というのは、「健康のためにすることの負担が大きすぎるなら、少しはサボってもいい」ということです。つまり、健康診断に行かないことで病気の発見が遅れたとしても、「病気はわからないものだから仕方ない」と思えるならそれでいいということです。

 今回は人間ドックについて考えます。人間ドックに行かないのはよくないことでしょうか。

 健診と人間ドックは似たようなものに思えるかもしれませんが、違います。会社の健診は労働安全衛生法で義務付けられています。特定健診(いわゆるメタボ健診)は健診の範囲をさらに広げたもので、高齢者の医療の確保に関する法律で義務付けられています。特定健診の内容は「標準的な健診・保健指導プログラム【平成30年度版】」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000194155.html別ウインドウで開きますとして例示されています。

 ここには「人間ドック」という言葉は出てきません。法的根拠なくさまざまな主体が各自の方針で行っているのが人間ドックです。イメージとしては、会社の健診より多くの検査をするのが特定健診で、人間ドックはさらに多く調べると思ってください。

 多く調べるならふつうの健診より優れているのでしょうか。必ずしもそうとは言えません。一般的には、症状やほかの検査値異常などから特定の病気が疑われるのでないかぎり、検査は慎重に使うべきだと考えられています。

 第一に、検査そのものが時間やお金の負担になりますし、苦痛を伴う検査、体を傷つける検査、出血や感染症などのリスクがある検査など、それぞれに慎重に使うべき理由があります。

 第二に、検査をして得になるのは、早期治療が有効な病気をタイミングよく見つけられた場合だけです。がん検診はこの目的で行われています。

 実は厚生労働省が自治体を通じて推奨している検診以外にも、がんの早期発見に使えそうな検査はいろいろあります。ところがそのほとんどは検診として成立しません。進行が遅く症状が出てからの治療でも間に合う場合とか、逆に進行が速すぎて検診でも早期治療にはつながらない場合なども多く、すべての検査が効率的に早期発見に役立つわけではないのです。

 第三に、検査をしたことによる害もありえます。異常値があればさらに多くの検査をして検査自体の負担がふくらむかもしれません。深刻な病気が見つかって不安になり、生活が崩れるかもしれません。見つかったものをすぐ治療するべきか、様子を見るべきかはしばしば判断しにくく、「念のため」と思って手術などの負担が大きい治療をした結果、実は治療しなくてもよかったとわかることもありえます。

 さらには病気が見つかったことで保険加入に影響が出るとか、就職・転職に影響が出ることも考えられます。たとえ見つかったのが実際には放っておいてよい病気だとしてもありえることです。

 健康な人に対する検査はこうしたさまざまな側面を検証したうえで、利益が害を上回ると確認できたものに限って使うべきなのです。

 では、人間ドックとして行われる検査の利益と害はどれほどのものでしょうか。

 前述のとおり、人間ドックの内容はさまざまなので、統一的にデータを示すのは難しいことです。

 先に理解の助けとして、「病気がなさそうな人には検査の価値は低い」という原則を説明しておきます。

 検査は大まかに言って、病気があるかないかはっきりさせるためにあります。検査をする前から病気があるとはっきりしている人に追加の検査をしても、診断が変わることはめったにありません。ちょっとした症状があって、よくある軽い病気かもしれないけれども、まれにある致命的な病気とも見分けがつかない、といったときに検査が役立ちます。

 実際には病気がありそうかなさそうかは微妙な程度の違いがありますので、それに応じて検査の価値にもグラデーションがあります(図)。

 健診/検診は、病気がないことがほとんどはっきりしている人に検査をするものです。そのため、一般的には診断のための意義が小さいと考えられるのですが、正しく診断することの価値が非常に大きい場合、たとえばがんを多く発見できるといった場合、検査の害に見合うだけの利益が得られる可能性があります。

 同じ検査でも、対象者に病気がなさそうな場合、たとえば対象者の年齢が低い場合には、さらに利益が小さくなります。このためがん検診は対象年齢を限定しています。

 では、がん検診よりも若い人を対象に含め、より多くの検査をして、比較的致死性の低い病気を探すと、どうなるでしょうか。

 検査は多くなりますので、検査による害は確実に増えます。そのぶん利益もあるかもしれませんが、害に勝るかどうかは明らかとは言えません。

 がん検診でさえ、年齢や検査の頻度(年に1回など)といった条件が細かく決められています。これは実際のデータを取って検証した結果、この条件に少しでも合わない人には平均して害が利益を上回ると考えられたためです。検証された条件から離れれば離れるほど、対象者を増やせば増やすほど、利益は平均して小さくなっていくと考えられます。

 害は確実に増え、利益は増えたとしても極小になっていきますから、おそらく害が勝ります。

 現に、健康診断による健康上の利益を検証する研究は行われています。2019年に報告された、過去の研究17件のデータをまとめた解析結果では、「健康診断は全死亡率(…)がん死亡率(…)に影響がないか、あってもわずかであり、おそらく心血管死亡率(…)にも影響がないか、あってもわずかである」とされ、結論には端的に「健康診断に利益がある可能性は小さい」と記されています(*)。

 一般的な健康診断でさえ、有効と言えるだけのエビデンスがありません。人間ドックはさらに検査を広げていますから、利益が少しでもあるかどうかはより不確かです。と言うより、利益がないことがほとんど確実です。

 害については、ふつうの健診よりも検査が多いので、害が多いことは確実です。したがって、人間ドックには行かないほうが健康のためになります。

 不健康を応援するはずが、今回は健康になるほうを応援してしまいました。まあいいでしょう。好きなようにしたことがたまたま健康のためになっていたら、もうけものではないでしょうか。

 筆者は大阪府出身で東京に住んでいます。健診嫌いの父はいまも地元に住んでいるのですが、最近は会いに行きにくくなってしまいました。そのうち機会を見つけて、健診に行ったか聞いてみようと思います。

* Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jan 31;1(1):CD009009.(大脇幸志郎)

大脇幸志郎

大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)

1983年、大阪府生まれ。2008年に東大医学部を卒業後、「自分は医師に向いているのか」と悩み約2年間フリーターに。その間、年間300冊の本を読む。その後、出版社勤務、医療情報サイト運営を経て医師に。著書に「『健康』から生活をまもる」、訳書に「健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭」。