コーチからキャスターまで 内田篤人が活動を広げるわけ

勝見壮史
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 サッカー界きっての人気を誇る元日本代表DFのセカンドキャリアに、注目が集まっている。2020年夏に現役を引退した内田篤人さん(33)だ。若い世代の育成現場で熱い指導をする一方、テレビのスポーツキャスターを務めるなど多方面で活躍する。その実績から監督など指導者として羽ばたくことを期待する声は多いが、なぜまっすぐその道に進まないのか。そこには、内田さんらしいこだわりがあった。

 「もう一度鍛え直して、子どもたちのお手本になるようなプレーをしたいと思っています」。4月中旬、日本サッカー協会が開いたオンライン記者会見で、内田さんの声は弾んでいた。半袖のシャツ姿で左腕に赤い主将マーク。同協会が取り組む「ユニクロサッカーキッズ」のキャプテンに就任するという発表だった。

 このイベントは、6歳以下の子どもなら、個人でも無料で参加できるミニサッカー大会だ。スポーツに触れ合うきっかけを提供しようと、同協会が03年に始めた。これまで約28万人が参加。過去には日本代表MFの久保建英らもプレーした。今年度は全国15会場で開く予定で、内田さんは各所で子どもたちとボールを追うという。

 内田さんは「これまで知らなかったけれど、素晴らしい活動。もっと広げたいし、僕でよければ参加させてもらいたいと思った」。内田さんは幅広い世代に人気があり、実績も申し分ない。同協会とユニクロにとって、旗振り役としてこれ以上ない適任者だった。

 内田さんはすでに同協会の「ロールモデルコーチ」として、後進の育成に携わっている。ドイツの強豪シャルケで日本選手として初めて欧州チャンピオンズリーグで4強入りし、14年のブラジルワールドカップには主力として出場。そんな貴重な経験を日本サッカー界の財産として次世代に伝えてほしいと、内田さんのために新設されたポストだった。

 今年3月の20歳以下日本代表候補の練習では、紅白戦で「そこはお前が指示するんだよ!」などと、げきを飛ばす姿も見られた。選手たちからは「説得力がある」と好評だ。日本代表の森保一監督も「素晴らしいキャリアを積んできた人材が、現場で日本サッカーの発展に貢献してもらえたらうれしい」と話し、指導者しての活躍に期待する。

 ただ、本人の感覚は少し違うようだ。年代別の代表チームの合宿に何度か同行し、そこで感じたことがあるという。「覚悟がないとできない職業だなって」。感覚的なものを、どうやって選手たちに分かるように言葉で伝えるか。成長につなげるための練習メニューをどう組むか。合宿をすれば、準備や振り返りのスタッフミーティングは夜遅くまで続くのが常だ。

 「全てを指導者に捧げる覚悟が、自分にはまだないなって思っている」。それが現時点での正直な思いだという。まだプレーできると惜しまれながら32歳で引退した理由にも通じる、自身と真摯(しんし)に向き合う信念が垣間見える。

 15年に手術して以降、右ひざの故障に悩まされてきた内田さん。高卒新人としてプロデビューを飾ったJ1鹿島アントラーズで約14年のプロ生活に幕を下ろしたとき、こう語っていた。「多くのタイトルを取った鹿島では、多くの先輩が選手生命を削りながら努力していた。いまの僕はそのような姿を後輩に見せることができない」

 ただ、「覚悟」を持ち出すのは、指導者への思いがくすぶっていることを示唆しているとも言える。ユニクロサッカーキッズで携わる普及の現場や、この春から報道番組で務めるスポーツキャスターも「自分にとって勉強」と表現する。

 活動の幅を広げることについて、内田さんは言う。「気付くことが、たくさんある。最終的に僕がもしサッカー界に携わるなら、絶対プラスになるな、と。いろんな現場を見させてもらいながら、サッカーとも触れ合いながら、自分の今後の方向性も見えてくれば面白いなと思います」。第二の人生を模索する日々は、しばらく続きそうだ。(勝見壮史)