政府のコロナ発信、届かぬ理由は 行動経済学で読み解く

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聞き手・伊藤弘毅
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 コロナ禍への危機感が世の中に十分広がらず、政府は3回目の緊急事態宣言の延長を余儀なくされた。なぜ、政府が発するメッセージは人々の心に響きにくくなったのか。単純ではない人間の心理を経済行動の分析に採り入れた「行動経済学」が専門の佐々木周作・東北学院大准教授に、今の状況を読み解いてもらった。

 ――1年前の最初の緊急事態宣言では、当時の安倍晋三首相が「出勤者の7割削減」などを呼びかけ、人出が一気に減りました。その時と比べると、今回は要請に従わない人が多いように見えます。

 「1回目の宣言で政府は『経済活動を止めてでも感染拡大を防ぐ』ことをめざしました。その後は『感染対策と経済活動を両立させる』方針にかじを切りましたが、それが想定ほどうまくいかなかったのだと思います」

 ――どういうことですか。

 「行動経済学では、『人は誘惑が目の前にある状況で我慢をするのは難しい』とされます。宣言の解除で街に戻った誘惑に釣られない人はまれだ、ということでしょう」

 ――原因はそれだけでしょうか。

 「政府は『人は誘惑に負けがちだ』として、企業や個人に行動の制約を課してきました。一方、感染拡大のなかでも東京五輪の開催をめざす動きについて説明する際には、『誘惑の中でも感染予防を徹底できる』としてきました。この矛盾した立場の使い分けが、政府の要請に対する国民の認知を邪魔しているのだと感じます」

人の行動誘導する「ナッジ」

 ――政府はコロナ対策の発信で、人々の行動を誘導する行動経済学の「ナッジ理論」を活用しています。佐々木さんも、政府の有識者会議で委員を務める大竹文雄・大阪大教授らとともに、ナッジを使った有効なメッセージについて研究してきました。これまでの政府の対応をどう評価しますか。

ナッジ

人々に選択の自由を与えつつ、社会にとって望ましい行動をそっと促すコミュニケーションの手法。人の心理や行動の特性に着目した行動経済学の概念で、この理論を唱えた米シカゴ大のリチャード・セイラー教授が2017年にノーベル経済学賞を受賞し、注目を集めた。日本でも省エネ対策や新型コロナ対策などで活用されている。ナッジは、英語で「ひじで軽くつつく」という意味。

 「『個人の権利を制限してで…

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