野生ライチョウ那須へ 順化施設が完成

小野智美
【動画】ライチョウの野生復帰順化施設が完成 那須どうぶつ王国=小野智美撮影
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 【栃木】国の特別天然記念物・ライチョウを長野県中央アルプス山中で復活させる作戦に那須どうぶつ王国(栃木県那須町)が参加する。この夏、中央アルプスから野生のライチョウ家族を受け入れ、将来的に家族を増やして野生に復帰させる計画だ。

 ライチョウ家族が生活する「野生復帰順化施設」が、どうぶつ王国に完成し、報道陣に公開された。家族が移住しても、野生に近い状態での繁殖目的のため一般公開の予定はない。

 ライチョウは、ハイマツ林帯や岩石帯が広がる標高2千メートルを超える高山に生息する。成鳥の全長は40センチほど。夏の羽は茶や黒、白のまだら模様、冬は尾をのぞいて真っ白になる。羽は脚にも生える。

 施設は屋内と屋外に分かれる。内外を仕切る扉は遠隔操作で開閉できる。夏は屋内のエアコンで猛暑を避け、高山に近い気温に保つようにする。多湿にも弱いため、室内に湿気を残さぬよう床は排水溝に向けて傾斜をつけた。

 屋外施設はライチョウが十分に運動できるよう奥行き約20メートル、幅約8メートル、天井高約3メートルの広さを確保。ハイマツを植え、岩場もつくった。天敵を防ぐため二重の金網で覆い、地下1メートルから地上70センチまでコンクリートの壁で囲んだ。ライチョウは感染症に弱いため、順化施設の入り口で、担当する獣医師や飼育員は靴も服も全部替える。

 国内のライチョウの生息数は1980年代に約3千羽いるとされたが、2000年代に約1700羽まで減ったとみられている。環境省レッドリストで「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」とされる「絶滅危惧ⅠB類」に指定され、各地の動物園も参加した保護繁殖の取り組みが始まった。

 国内のライチョウの保護繁殖に先立ち、那須どうぶつ王国は、ノルウェーのスバールバルライチョウを飼育し、経験を積んだ。17年からライチョウの人工孵化(ふか)をスタート。佐藤哲也園長は「人への警戒心が強いスバールバルライチョウに比べ、日本で『神の鳥』とも呼ばれてきたライチョウはあまり人を怖がらず、飼育しやすい。ただ、感染症に弱い」と語る。

 近年の研究で、野生のライチョウのヒナは餌の高山植物の毒素分解に必要な腸内細菌などを母鳥からもらうことがわかった。これがないと野生では生き残れないという。現在、那須どうぶつ王国が飼育する9羽は、母鳥も人工孵化で育って細菌などをもっていないため、山に放せない。

 復活作戦は、18年に中央アルプスでメス1羽が確認されたのがきっかけで始まった。20年に北アルプスの3家族19羽を中央アルプスの木曽駒ケ岳に移送。山頂付近でその多くが生き延びているという。

 計画では、母鳥とヒナ数羽を、今年8月にそれぞれ那須どうぶつ王国と茶臼山動物園長野市)に移送して繁殖させる。両園でオスを交換することで近親交配も避ける。順調に繁殖が進めば、増えた家族は中央アルプスに野生復帰させるという。

 これまで那須どうぶつ王国は、ほぼ手弁当で準備を進めてきた。順化施設は倉庫を改築した。コロナ禍で打撃を受けたため、改築費2500万円はクラウドファンディングで集めた。(小野智美)