古代の「意思」、受け継ぐ音色 サヌカイトで作った楽器

木下広大
【動画】サヌカイトで作られた楽器=木下広大撮影
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 その楽器をたたくと、ポーンという高い音が響く。澄んだ余韻が長く伸び、どこか穏やかな気持ちになる。香川県の他ではほとんど採れない石「サヌカイト」で作られた楽器だ。

 名前の由来は「讃岐」から、1891年にドイツの学者が命名した。高松市坂出市にまたがる五色台周辺などで採れる。割ると鋭い刃になることから古くは石器として使われ、地元では「カンカン石」と呼ばれて親しまれてきた。

 サヌカイトでできた楽器に、筒状の石をつり下げた「琮(そう)」と呼ばれるものがある。中には音階順に並び、他の楽器と合奏できるほど安定した音が出るものも。まさに石でできた精密楽器だ。

 琮は地元の建設会社社長、故・前田仁さん(享年79)の思いつきから生まれた。1975年ごろ、知人の勧めで五色台近くの「金山」を購入した。宅地を造ろうと、地面を掘ると大量の硬い石が出てきた。

 サヌカイトだった。

 数年後、金山が古代に石器の一大生産地だったと判明した。近くの別の山で大正時代からサヌカイトの石琴が作られていることを知り、思いついた。「楽器として、金山の石をもう一度世に出してやろう」

 79年、楽器づくりを始めた。東京工業大で化学を研究していた前田さん。石の加工技術や音楽への見識はほとんどなかったが、研究意欲は人一倍だった。町工場の技術者や、楽器製作に詳しい専門家の知恵を借り、試行錯誤した。

 石の琴や、細い溝の入った銅鑼(どら)のような形のものなど、できた楽器は数知れない。琮は当初、石をくりぬいた釣り鐘をイメージ。しかし中が空洞だと音が出ず、芯棒を残したものをたたくと、神秘的な音が響いたという。

 できた楽器や出土したサヌカイトの石器は、金山に開いた施設「けいの里」で展示。中にはコンサートホールも備えた。

 2008年に前田さんが亡くなってからは、長男宗一さん(63)が、より精密で広い音階を探る。石でできたスピーカーなども考案。「父が作った楽器のように、他にはない音の楽器を作りたい」

 石を加工する職人技術も、次世代に受け継がれている。三豊市の秋山源さん(44)は、6年ほど前から前田さんの会社でサヌカイト楽器の製作に携わる。

 石を削り、穴を開け、磨き、音を整える――。加工には繊細な技術が求められ、完成間近で割れたり、音が出なくなったりすることも少なくない。割れるのを見越して同じ物を三つ並行して作ることもあるという。

 「ダジャレじゃないけど、石に意思があるというか。たまたま僕の手を介していますけど、石がなるべくしてその形(楽器)になっているような気がします」(木下広大)

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 サヌカイトを使ったコンサートは各地で開かれている。その第一人者が、高松市出身で、市の観光大使も務める小松玲子さん(46)=東京都=だ。サヌカイトによるオリジナル曲をまとめたCDを発売し、他楽器とのユニットを結成するなど約20年間、その魅力を発信し続けている。

 サヌカイトの楽器「琮」などを使う。強くたたくと割れることもあるため、ほどよい力加減を調整してきたという。

 小松さんは、その魅力について「不思議な楽器です。聴いた人の反応が他の楽器と違う」と話す。目の見えない人が「光を感じます」と言ってくれたり、普段は落ち着いて演奏を聴くのが難しいという障害のある子どもたちが集中して音に聴き入ったり。

 目標は、多くの子どもたちにサヌカイトの魅力を知ってもらうこと。「いろんな人を巻き込みながら、純粋に良い形でいい音を届けたい。私の後も(演奏する人が)つながって欲しいと思っています」

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 サヌカイトは、約1400万年前、五色台周辺に噴き出した溶岩が固まってできた。屋島の山頂などを造った硬い安山岩の一種だが、ほかのものよりも岩石中に空洞や結晶が少なく均質なため、音が響く。

 均質な岩石ができたのは二つの要因がある。一つは、地下で固まりかけたマグマがもう一度温められて空気が抜けたこと。もう一つは、その後すぐに地表に噴出したことで岩石中に結晶ができにくかったためと考えられている。

 五色台近くにある坂出市の金山の東斜面には、砕石状のサヌカイトが広がり、天然の採石場となっている。これは、金山の山頂を形成するサヌカイトが大昔の地滑りで崩落し、砕けて散らばったためと推定される。ただ、同種の安山岩が広く見られる県内で、五色台周辺でのみサヌカイトが採れる理由は明らかになっていない。