自慢ではないが…と能弁に 初めて明かされたゴーン供述

有料会員記事主役なきゴーン法廷

金子和史、三浦淳
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 もし日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告(67)が逃亡せずに裁判を受けていたら、こんな無罪主張を展開したのだろうか――。共犯とされた元側近に対する公判で、ゴーン元会長の捜査段階の供述調書が4時間にわたって読み上げられた。「主役なき法廷」で元会長の見解が明らかになる唯一の機会だった。

 ゴーン元会長の調書を証拠として請求したのは、側近だった元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)の弁護人。11日の東京地裁での公判で、計20通を読み上げた。元会長が東京地検特捜部に逮捕された2018年11月から12月にかけて、東京拘置所での取り調べで作成された調書だった。

 検察側は、10~17年度のゴーン元会長の「総報酬」は計約170億円だったのに、実際に各年度に支払った約79億円の「既払い報酬」だけを有価証券報告書(有報)に記載し、残りの約91億円は退任後に顧問料などの名目で支払う「未払い報酬」にして記載を免れたと主張する。ゴーン元会長の調書には、これに対する詳細な反論が記されていた。

この後、ゴーン元会長の取調室の様子を再現します

恐れた「大衆からの批判」

 調書によると、元会長は1億円以上の報酬を得た役員と金額を有報に個別に開示する制度が10年に導入されたことを受け、二つのことを懸念した。「大衆からの批判(public outcry)」と「日産従業員のモチベーション(motivation)」だった。

 高額報酬が明らかになると、「大衆は『あの人はあんなに多く報酬をもらっている』『私はこれしかもらっていないのに』などと不満を持って騒ぐ」と持論を展開。日産の従業員についても「会社幹部があまりに高額の報酬を受け取っていると受け止めると、働くモチベーションと仕事への取り組みが低下する」と指摘した。「日本では会社幹部への報酬について、大衆や従業員の許容度が世界水準より低い」とも語っていた。

 このため、個別開示制度の導入後は、年間報酬が10億円程度にとどまるように減額したという。

「自慢ではありませんが」と明かした引き抜き

 そのうえで、検察側が「本当の報酬」とみる「総報酬」については、世界の大企業のCEO(最高経営責任者)報酬と比較し、「私が受け取ることができたはずの報酬だ」と主張した。

 「これは決して自慢ではありません」と言いながら打ち明けたのは、フィアットやフォード、ゼネラル・モーターズ(GM)といった世界の自動車大手から引き抜きの誘いを受けたというエピソード。「日産に愛着を持っているので、日産にいた」としながら、そうした企業の報酬は日産よりも高額で、「日産のCEOであることによって、世界のトップクラスのCEOと比べていくらの報酬を得られなかったのかを、毎年計算していた」と説明した。

 実際に計算したのは、後に司法取引の形で捜査に全面協力することになる大沼敏明・元秘書室長だった。世界のCEOの報酬を「ベンチマーク(水準)」にして設定した総報酬(GRAND TOTAL)、このうち実際に支払った金額、残りの差額(Remaining)の3項目を、計算書に1円単位で記載した。

 検察側はこの差額こそが、有報に開示しなかった「未払い報酬」と位置づける。しかし元会長は、取締役を退いた後にコンサルタント契約を結ぶなどした際の報酬を計算する「参考」だと反論。その報酬はあくまでも退任後の業務への対価で、取締役当時の報酬の後払いではない、と説明した。

 元会長はこうした報酬を「得られるはずなのに得られなかった報酬」とも表現したが、「(将来の)支払いは約束されていない。参考に過ぎず、確定していない」と語り、有報に記載する必要性を否定した。一方、逮捕当初は、記載すべきかは「グレーゾーン」との見解を示すこともあった。

自宅で発見された文書も「覚えていない」

 取り調べでは、検察側が重要…

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