AIと恋に落ちたらどうなる…? 三田麻央が描く近未来

阪本輝昭
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 元「NMB48」メンバーでタレントの三田麻央が、小説家デビューを果たした。第1作「夢にみるのは、きみの夢」(小学館ガガガ文庫)は、構想から完成まで約2年。アニメやゲームにのめり込む会社員の「美琴」と、見た目は人間そのままのAI(人工知能)ロボット「ナオ」との恋愛ストーリーを通じ、ヒトとロボットの未来を展望する。

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「夢にみるのは、きみの夢」に込めた思いを語る三田麻央

 周囲とコミュニケーションをとるのが苦手で、恋愛経験もゼロ。好きなのは「乙女ゲーム」、憧れの相手はゲーム内のキャラクター「金堂町先輩」――。

 そんな美琴のいつもの朝から物語は始まる。2次元の世界に自分の理想を詰め込む一方、実社会ではとんとさえない日々を送る美琴。その前にある日、現れたのは思い描いた通りの親切な青年。研究施設から脱走してきたという自称ヒト型AIロボットのナオだ。その言動を怪しみながらも家にかくまい、奇妙な共同生活を送るうちに美琴の中にいくつもの変化が生じる。やがて美琴に、ヒトである会社の先輩と、ロボットであるナオのどちらかを本当の恋愛相手として選ばないといけない局面が訪れる――。

 アイドルグループNMB48に在籍していたころから、アニメやゲーム通として知られた三田の面目躍如というべき設定だ。

 「美琴はほぼ私自身なので、その意味でキャラクター作りの苦労はありませんでした。細部の描写にも気を使ったし、何より普段の妄想めいた思考まで再現したので、自分の頭の中を全てさらしちゃったような恥ずかしさもあります」

 人間と、人工知能をもったロボットとが出会い、織りなす悲喜こもごもの物語は、SF小説における古典的なプロットの一つだ。2020年代のロボット小説としてのリアリティーを持たせるため、何冊もの関連書籍や文献に目を通し、最新のAI技術の到達点を作品に反映させた。執筆に時間を要したのは、初めての小説執筆だったということに加え、こうしたインプットのためだったという。

 ヒトとロボットのどちらを選ぶのかという選択を突きつけられた美琴が、苦悩の末に選ぶ答え。ナオの開発者たちを巻き込んで繰り広げられるその後の急展開。結末は切なさに満ちているようにも、ハッピーエンドにも読みとれる不思議な雰囲気をまとっている。

 三田はいう。「最後の解釈はあえて読者一人ひとりの感性にゆだねました。作者として言えるのは、作中のキャラクターは全員が自分なりの『正解』を信じ、必死に生きたということ。だから、主人公が最終的に誰なのかということも読者の皆さんに決めてほしいです」

 小説は、甘い雰囲気の恋愛小説のかたちをとりつつ、AIロボットに「心」をもたせることはできるのか、「心」をもたせたときに何が起きるのかというテーマに迫る。開発倫理の議論が未成熟なまま、AI技術だけが急激な発展を遂げた先にある近未来を予想した作品ともとれる。この点について三田は「技術の発展は止められないし、社会はどんどん便利になっていく。人間とAIが未来もいい形で共存してゆくためには、向き合い方をきちんと考える必要があると思います。それはこの小説を書く過程でも改めて感じました」と語る。

 大阪府出身。11年、2期生としてNMB48に加入した。親しみやすいキャラクターに加え、アニメやゲームへの造詣(ぞうけい)の深さで異彩を放ち、グループ内で独特の地位を築いた。19年に惜しまれて卒業し、現在はタレントのほか声優としても活躍する。

 近くにいるように見えても、友達のように会話しても、実は遠い世界の住人。信頼のみで結ばれるその関係性は切なく、はかないものであるゆえに「尊い」――。そんな美琴とナオの世界は、アイドルとファンの関係そのものではないだろうか。アイドルの世界に身を置いていた三田の経験と思考こそが、この世界観に反映されているようだ。

 そう問うと、しばらく考えて「そうかも知れません。だから、美琴とナオのラストは、私個人は『ハッピーエンド』だと解釈しているんです」と笑った。

 「夢にみるのは、きみの夢」は4月20日発売。イラスト・あおのなち。704円(税込み)。(阪本輝昭)

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「夢にみるのは、きみの夢」の表紙
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「夢にみるのは、きみの夢」を著した三田麻央