「街の映画館」の誇りと覚悟 右翼の上映中止要求に声明

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茂木克信
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 神奈川県の横浜シネマリン(横浜市中区)で上映中の「狼(おおかみ)をさがして」は反日的な映画だとして、右翼団体が同館に上映中止を要求している。これに対し、八幡(やわた)温子支配人(64)が声明を出した。姿を消しゆく「街の映画館」を守る八幡さんが、声明に込めた思いとは。

 横浜シネマリンは、前身を含めると70年近い歴史がある。ただ、八幡さんの手で再オープンしてからは、まだ7年に満たない。

 八幡さんは市内で不動産業を営むかたわら、映画ファンらの集い「横浜キネマ倶楽部」に参加していた。そうした中、2014年春にシネマリンの関係者から、閉館を避けるために経営を引き継がないかと誘われた。50代後半での新たな挑戦に魅力を感じた。

 運営会社を買い取ると、ファン目線で館内を大幅に改装した。スクリーンを一回り大きくするため、前4列の座席を取って165席から102席に減らし、天井を高くした。デジタルの映写機を新たに導入し、35ミリフィルムの映写機は取り換えた。内装や照明、音響にも手を入れた。私財を5千万円以上投じた末、14年12月に再出発した。

 上映作品の選定は当初、編成の専門家に頼んでいたが、4年ほど前から八幡さんが自ら決めている。「ミニシアターがいくつもある渋谷のように、多様でとがった映画文化をこの地につくりたかった」と言う。近くにある「シネマ・ジャック&ベティ」との違いを意識して、元々好きなドキュメンタリー作品を多めに選んできた。今回の「狼をさがして」も、そうした1本だった。

 映画は1974~75年の「東アジア反日武装戦線」による連続企業爆破事件を掘り起こしつつ、彼らの主張や日本の戦争責任に迫る。八幡さんは試写を見て、多数の死傷者が出たことへの関係者の反省や悔悟を押さえていることも確認し、上映を決めた。

 だが、初日の4月24日から今月8日まで計3回、右翼団体街宣車が近くの路上で上映中止を大音量で要求。7日には右翼団体のメンバーとみられる男性2人が館内に立ち入るなどして、上映中止や八幡さんとの面会を迫った。

 八幡さんは「彼らは『事件を容認した映画だ』とか『監督が韓国人だから反日的だ』とか言うが、映画を見たとは思えない。そんな理不尽な主張に屈するわけにいかない」と語る。

 八幡さんも時折立つチケット売り場からは、扉越しに事務室の中が見える。常連客は八幡さんを見かけると、世間話や映画談義をしてくる。敷居の低さも魅力の一つと考えていた。そんな肩の力が抜ける空間が、今回かき乱された。

 10日付の声明には、積み上げてきたものへの誇りと、ファンとともに大切にしてきた空間を守るんだという覚悟を示した。

 横浜シネマリンは、「観(み)たい映画はこの街で」をスローガンに、映画の多様性を重視した作品選定をし、市民に映画を提供している街の映画館です。

 (中略)このような暴力的、且(か)つ的外れな抗議行動に決して屈することなく、上映を続けます。

 上映は21日まで。14日は午前11時40分から(一般1800円)。15~21日は午後8時50分から(レイト割一般1500円、16日のみ全員1100円)。問い合わせは同館(045・341・3180)へ。(茂木克信)

横浜シネマリンの声明(原文のまま)

 横浜シネマリンは、「観(み…

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