「総員起こし!」海自の船で南極へ、初氷山に心おどる

中山由美
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海氷を割りながら進む南極観測船しらせ。海氷が厚い時はバックして勢いをつけて体当たりして砕氷する=2019年12月13日午後4時54分、南極海、中山由美撮影
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 観測船しらせは大海原を行く。ぐるっと360度、陸地も船も見えない。「南極へ向かっているんだっけ?」。2019年12月2日出港、約1カ月の航海が始まった。人や建物、車あふれる「人間社会」と離れていく実感がまだわかない。

 「総員起こし、5分前!」。午前6時前、船内放送で朝が始まる。しらせは海上自衛隊の船だ。低く短い号令のような声で「配食始め」「巡検」など聞き慣れぬ言葉が流れる。これは「ご飯の時間」「点検にまわるよ」という意味だ。

 1~6次隊の観測船「宗谷」は海上保安庁が運航し、7次隊以降は海自が輸送支援をしている。規律はきっちり、でも堅苦しいイメージはすぐ吹き飛ぶ。船内を案内してくれる笑顔に「乗員も南極行きが楽しみなんだ」とうかがえる。

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南緯55度を通過し、南極観測活動域に入った観測船しらせが初めて出会った氷山=2019年12月7日午前10時57分、中山由美撮影

 7日午前6時7分、南緯55度、東経110度を通過。南極圏はもうちょっと先だが、ここから「南極観測活動域」に入る。海洋観測も始まった。午前9時53分、「初氷山視認!」の放送が響く。カメラとビデオを手に艦橋に駆け上がると「どこどこ?」、隊員も乗員も集まってきた。うっすら青みがかった白い氷山が迫って来る。高さ70メートル、幅500メートルほど。「南極」を実感する最初の瞬間!

 「あぁ南極に手が届きそう!」。氷山にもっと近寄って見上げたい。撮影したくなる。

 でも、それはできない。氷山のそばはとても危険なのだ。「氷山の一角」の言葉通り、海に浮かぶ氷山で海面上に出て見えている所は一割ほど。海につかっている方が圧倒的に大きい。客船タイタニック号の沈没事故を思い出した人もいるのでは――。

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氷海を飛ぶユキドリ=2019年12月9日午前10時10分、南極海、中山由美撮影

 南極に入って、一面凍った海に閉じ込められた氷山なら、そばまで歩いて行って見られそう。でも、これもまた危険なのだ。厚さ数メートルのびっしり硬く凍った海氷も潮汐(ちょうせき)で上下するし、強い風が吹けば氷山は押される。周りの海氷は動いて、薄く割れやすくなっている所もある。

 美しくもそばに危険が潜む。これもまた南極らしい魅力だ。中山由美

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