捨てるの邪魔する「もったいない」 自尊心が低い証拠

中島美鈴
[PR]

 冷蔵庫や書棚、パントリー、物置などがなぜかモノであふれかえることってありませんか? どうしても、捨てられない人っていますよね。このコラムでご紹介しているADHDの主婦リョウさんもまさにその一人です。「今捨ててしまうと、もしかしたら将来困るかもしれない」とか「これ、高かったのにもったいない」と考えて、どうしても物を捨てられないのです。なぜADHDの人は物をため込む傾向にあるのでしょうか。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

捨てる基準がないのと決められない

 これはADHDの人がもつことの多い「意思決定」の障害にあるといわれています。この場合では、捨てるか捨てないかの基準を決めていないために、判断ができないのです。

 一般的には冷蔵庫の断捨離が一番簡単だといわれています。賞味期限という捨てる基準が背中を押してくれるからです。

にもかかわらず、リョウさんの冷蔵庫は、パンパンに物が入っているわりに、食べられるものがなにもない状態なのです。

 リョウさんももはや何が入っているかよく把握できていません。冷蔵庫のようなふたを閉めてしまえば、中身が見えなくなる収納は、危険です。「見えないものは、記憶からもなくなってしまう」からです。記憶力にも問題があるADHDの人によっては、視界からなくなることは、記憶から消滅することを意味しています。

 リョウさんの冷蔵庫には、

・また何かに使うかもしれない無塩バターの残り(何gか不明)

・いつか作った副菜の残りで野菜から水分が出てもうおいしくなさそうなもの

・ちょっとだけ残ったミネストローネ

・いつ焼いたのか不明の焼き魚の残り

・誰かにお土産でもらった使いこなせない調味料

・食べかけのジャム

・弁当についていたしょうゆやしょうが、からしなどのパック

 こんなものがたくさんです。

 ついでにいうと、リビングには枯れかかったけれど、まだぎりぎり咲いている花もいけられたままです。

 そんなかんじでリョウさんの家には、目にするとテンションが落ちてしまう箇所がたくさんあるのです。

 リョウさんは、ここで「捨てる」「捨てない」の基準を作っていく必要がありそうです。

 その基準をわかりにくくしているのが、どうやら

 「また何かに使うかも」

 「もったいなくてとっておいたもの」

 「いただきものだから捨てると悪いもの」

 でしょうか。

 これらに対しても、しっかり基準を決めておくとよいのです。

 「また何かに使うかも」→「何か」というあいまいさを排除します。何に使うのか決まっていないのなら、潔く捨てましょう。もしくは何に使うのか今すぐ決めて使うメニューと日時を決めてしまいます。「あとで」と後回しすると、その物の存在をすぐ忘れます。それでも「でももしもの時に必要になるかも」と心配になる人もいるかもしれません。大丈夫です。「ああ、あの時捨てずにとっておけばよかった」と後悔したとしても、それは物に占領されるストレスよりはマシです。

「もったいない」を繰り返し冷蔵がぱんぱん

 「もったいなくてとっておいたもの」→これは高価だったし、ともったいなく思う気持ちはわかります。ただ、この「もったいない」の繰り返しで冷蔵庫がパンパンになるたびに、私たちは「ああ、私は整理整頓のできないだらしない人間だ」と感じているはずなんです。こんなに自分の心に負担をかける方がもったいないのかもしれません。

 つまり、「もったいない」と思うのは、自尊心が低い証拠。その高いものに見合う自分がいることを忘れないでください。物をとっておくことで価値のある自分にストレスをかけてしまうことを許さないでください。

 「いただきものだから捨てると悪いもの」→友達がくれたもの、大切なプレゼント…捨てにくいですよね。でもきっと友達はあなたにその物をあげたいだけでなく、あなたに幸せになって欲しくて贈り物をしています。その気持ちをしっかり受け取りながら、物があふれるストレスになるようなら捨ててしまいましょう。

 いかがでしたか?

 物が捨てられない背景には、意外と自尊心がかかわっていることがおわかりいただけたことでしょう。

 どうしても決断できない場合には、身近にいる自尊心の高いあの人ならこういう時捨てるだろうか? と想像してみるのもよいでしょう。

*****************************:

著者の新刊が出ました。「ADHD脳で困ってる私がしあわせになる方法」(中島美鈴、主婦の友社)というADHD傾向でお悩みの女性向けのエッセー風の一般書です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4074466872/別ウインドウで開きます(中島美鈴)

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。