文学賞主催するカフェ「半空」店主 岡田陽介さん
【香川】年季の入った本が壁一面にずらりと並ぶ、コーヒーの香りが漂う薄暗い店内。心地よいジャズが流れる。高松市中心部の路地の2階にあるブックカフェバー「半空(なかぞら)」は毎年、文学賞を主催している。テーマは地元鉄道ことでんや丸亀城の石垣、ラジオなど様々。店主の岡田陽介さん(39)に本への思いや賞を作った経緯を聞いた。
――店中、本でいっぱいですね
もともと本が好きで、中学生の頃から古本屋で1冊100円の本を買って読みあさっていました。家が山奥だったので、娯楽が本しかなかったんです。
でもどんな本が好きかも自分で分からなかったので、作者の「あ」行から順番に手にとって。だから好きになったジャンルは多くて、文学のほかに美術とか社会学とか心理学とか、いろいろ。その時に買った本も店に多くあります。
――高松では珍しく夜中までやっていて、コーヒーも本も音楽も楽しめる店。こうしたカフェをやろうと思ったきっかけは
高校生の時にはもう店をやろうと思っていました。ジャズ喫茶に入り浸るようになって、コーヒーも好きになって。そこでいろんな人と出会ったのがきっかけです。
それまでの生活って、周りに家族や学校の人しかいなかった。ジャズ喫茶で出会った人は、「先生と生徒」とか「先輩と後輩」とか、そういった肩書抜きの関係。それが新鮮で、人間にはこういう「人と人として出会う場」が必要だな、って思ったんです。それを自分でも作りたいなと。
――なぜ文学賞を始めようと思ったのですか
店では本を読む人が多いのですが、何か書き物をしている人が結構いたんです。小説家になりたい人じゃなくても、日記とか、手紙とか、誰かに見せる予定のない文章を書いていて。見せてもらうとこれが結構面白い。こういう「誰にも見られずに世の中から消えていく文章」ってめっちゃあるんやなと。それを読めたら面白いなと思ったんです。
――賞への反応はどうでしたか
最初は寄せられた作品を店に置いて、お客さんが読んで気に入ったものに投票する形でした。徐々に応募が増えて、今は審査員が受賞作を決めています。最近は全国から200作くらいの応募があります。A4サイズで1枚の内容ですが、涙なしには読めないものも多いです。
第3回は「電車の中でことでんの話を読む」って素敵だなと思って、ことでんさんとコラボしました。主要駅に入賞作品をまとめたフリーペーパーを置いてもらって。
第5回は香川県丸亀市とコラボして、丸亀城の石垣をテーマに。入賞作品をまとめた冊子に、崩れた石垣の復旧に寄付を呼びかける振込用紙を付けました。
――審査方法に特徴はありますか
受賞作は、僕やお店の常連さんでつくる実行委員会のメンバー数人と、ことでんの社長さんなど各回のゲスト審査員が選びます。審査員にプロの作家さんはほぼいません。世の中にはプロが選ぶ賞が多いですが、あえて素人が純粋に「好き」と思える作品を選びたい。そうすることで、いろんな人に楽しんでもらえたらいいなと思います。(木下広大)
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おかだ・ようすけ 1981年、高松市南部の旧香川郡香川町生まれ。高松工芸高校を卒業後、20代で「半空」を開業。雑誌やラジオで本の紹介も。2015年から毎年「半空文学賞」を主催する。今年のテーマは「ラジオ」で、募集は終了。入賞作品は9月に発表予定。半空(087・861・3070)は、高松市瓦町1丁目10番地18。営業は午後1時~翌午前3時(5月中は午前10時~午後8時)。