第1回「食べ物の色じゃない」紅いもタルト、バスが列なすまで
国吉美香
背丈ほどに伸びたサトウキビ畑が続いている。しばらく進むと、首里城を思わせる赤い瓦屋根の建物が目に飛び込む。
那覇空港から北に車で約1時間。沖縄本島中部、読谷村(よみたんそん)の残波岬近くに、その会社はある。沖縄を代表するお菓子、紅いもタルトを育んできた「御菓子御殿(おかしごてん)」だ。
今年5月、沖縄が日本に復帰して50年目に入った。だれもが知る食べ物や工芸品から、その素顔に迫る「沖縄名産物語」を、ここから始めたい。
紅イモとは、サツマイモでいえば黄色い中身が、赤紫色をした品種の沖縄での呼び名。その紅イモを原料にした「あん」を、舟形の生地にのせて焼き上げたのが、紅いもタルトだ。
ほおばれば、口の中にまろやかな甘みが広がる。
「御菓子御殿」創業者の澤岻(たくし)カズ子さん(74)は言う。「作りたてを提供して喜んでもらいたい。その気持ちは、あの頃から変わりません」
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だれもが知る沖縄生まれの名産の品々には、波瀾万丈な物語がありました。沖縄が日本に復帰して2022年5月で半世紀。現場を歩き、さまざまな表情を見せる素顔に迫ります。
話は、半世紀ほど前までさかのぼる。
澤岻さんの周囲では、友人や…