水木しげるも好きでした 創業70年、和菓子店が閉店へ

高橋淳
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 漫画家の故・水木しげるさんも愛した東京都調布市和菓子店「松月堂」が、5月末で閉店する。調布の歴史を織り交ぜた和菓子で約70年にわたって地域の人たちに親しまれてきた。だが職人が高齢となり、コロナ禍も加わって先が見通せなくなり、決断した。

 京王線調布駅から歩いて5分。今も昭和の雰囲気を残す商店街「調布銀座」の一角に松月堂はある。1952年に開業した店の名物は、臼の形をした「たづくり最中」だ。かつて調布は布の産地で、農家が臼に入れた粗布を杵(きね)でつき、柔らかく仕上げていたという。そんな郷土の歴史から初代店主が考案し、地元の人たちが遠出する際のみやげ品としても重宝がられた。

 春先から季節限定で店に並ぶかしわ餅は、無添加で、賞味期限は当日限り。「暮らしの中に普通にある菓子店として親しまれてきた」と、3代目店主の市川隆輔さん(44)はいう。

 しかし、昨春からのコロナ禍で、旅行や帰省の機会は激減。店の利益の中心だった贈答用菓子の売り上げが見込めなくなった。開業間もないころから働く職人も高齢となり、閉店を決断した。

「水木先生の作品に店の姿」

 市内に50年以上暮らした水木しげるさんも、店の菓子を好んで食べた。水木さんの長女の原口尚子さん(58)は「父にとって、休憩時間にスタッフとともに抹茶とお菓子で語らうのが、大切なひとときだった」という。

 閉店の知らせを受けて水木プロダクションは公式ツイッターで、「調布駅前の再開発やコロナ禍で、昔ながらの個人経営のお店がどんどんなくなっています。(中略)ついにこの店も…。水木はこの店の柏(かしわ)餅とわらび餅が好きでした」と投稿した。

 実は水木さんの作品にも店が登場する。短編作品「とかげ」(「怪奇館へようこそ」〈ちくま文庫〉収蔵)には、主人公の漫画家がひとりで歩く商店街の街並みとともに、店の外観が細密な筆で描かれている。

 ツイッターの影響もあり、店には閉店を惜しむ声が数多く寄せられているという。

 市川さんは「こんなにも皆さんに大切にされていたのかと改めて気づかされた。水木先生の作品の中に店の姿が残っていくことも、とてもありがたいです」と話している。(高橋淳)