第1回「そのとき」を待つICBM 米軍基地で見た核発射訓練

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モンタナ州グレートフォールズ=渡辺丘
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米国核戦力 現場から①
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 一面雪に覆われた真冬の大平原を野生の鹿が駆け、雪化粧の山々を遠くに望む。川は凍り付いている。米西部モンタナ州にあるマルムストローム空軍基地を軍のヘリで飛び立って約20分。雪原にフェンスで囲まれた一画が見えてきた。米兵が機内の無線で「あれがICBMの発射施設だ」と言うのが聞こえた。

 ICBMとは、大陸間弾道間ミサイルの略。爆撃機、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とともに、米国の核戦力の三本柱の一つだ。

連載「米国核戦力 現場から」

冷戦終結から32年が経過し、米ロ間の核軍縮条約の発効などで世界の核兵器の総数は大きく減りました。しかし、新たに軍事力を急拡大する中国を交え、1発ずつの性能や技術など「質」をめぐる競争が激化し、「核の復権」の時代とも呼ばれています。核大国である米国の核兵器の現状はどうなっているのかを、現場の取材を中心に連載6回でお伝えします。

 私は、朝日新聞アメリカ総局スタッフのピーター・ローイとともに、取材許可を求めて昨年後半から米軍と交渉を続けてきた。ワシントンで核政策を取材するなか、秘密のベールに包まれた三本の核戦力の現場をこの目で確かめたかった。

 年明け、米軍からメールで思いがけない回答が届いた。「取材を受け入れる」――。軍と細部を詰め、ようやく機密施設に立ち入る特別な許可を得て、軍用ヘリに乗ったのだった。

 訪れたのは2月中旬。この日は快晴に恵まれたが、気温は零下10度程度だった。発射施設は横50メートル、奥行き70メートルほどの敷地内にあった。牛を飼う農家が点在するのどかな農村地帯の地下に、広島に投下された原爆の約20倍の威力がある核兵器が息を潜める。1962年のキューバ危機のころから、一帯に配備され続けている。

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米西部モンタナ州のマルムストローム空軍基地内の整備施設で、巨大トレーラーの荷台に納められた大陸間弾道ミサイル(ICBM)=2021年2月17日、渡辺丘撮影

 その場所はあまりにも場違いな気がした。敵の標的になりえる施設なのに、幹線道路からわずか100メートルほどで、人家も近い。国が買収した土地だけでなく、借地もあり、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)に基づく査察もあるため、場所自体は人々の知るところになっていた。

 施設の入り口に自動小銃を持った警備兵がいた。私は訪問許可を得ていたが、厳重な身分確認が行われ、携帯電話やカメラなど電子機器の持ち込みは厳禁だった。軍のカメラを使った撮影だけが認められた。

 「許可のない立ち入り禁止。(立ち入れば)殺傷能力のある銃器の使用が認められる」「ドローンの飛行禁止」。フェンスには外部にこう警告する看板も掲げられていた。

 施設内の巨大なコンクリートの地面にあけられたマンホールのような円形の穴があった。深さ約27メートルの地下サイロ(発射台)への入り口だ。はしごを使って下りた。外は目を開けているだけで痛いくらいの寒さだが、サイロ内の空気は不気味に生暖かい。固体燃料を使ったミサイルの保管に適した気温15~27度に保たれているためだ。

 壁には「単独行動禁止。2人ルール義務」と書かれた標識があった。中央に直径約3・6メートルの頑強な金属製の円筒があった。この中で高さ約18メートル、直径約1・7メートル、重さ約36トンのICBM「ミニットマン3」1基が静かに「そのとき」に備える。

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モンタナ州グレートフォールズのマルムストローム空軍基地の司令部=2021年2月16日、渡辺丘撮影(軍のヘリコプター内から)

 この日、そのミサイルは整備中だったが、翌日、マルムストローム基地内の奥まった場所にある整備施設を車で訪れ、実物を間近で見た。

 「U.S. AIR FORCE(米空軍)」と表記された巨大な白いトレーラーの荷台に載り、外面が濃い緑色のミサイルがあった。爆発の恐れが常にあり、ミサイルや弾頭を輸送する際は、風の強さなどに細心の注意を払っているという。ランディ・バーティス上級曹長(38)は「絶対に触るな。緊急事態が起きたら、すぐにこの場から離れろ」と言った。

記事後半では、記者が発射を管理する施設に入ります。施設では「敵からのサイバー攻撃に強い」との理由から、今では余り使われることのなくなった、あの記憶媒体が使われていました。24時間態勢で発射を管理する「ミサイラー」と呼ばれる兵士の思いなども伝えています。到着するまでの米軍ヘリ内部からの様子や施設内を撮影した動画などもご覧ください。

 核弾頭は搭載されていなかっ…

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