遭難、ヒントは「鉄塔の案内板」 山に向かった電力社員

高億翔
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 長野県の南部、静岡県境に近い天龍村の山中で4月、渓流釣りの男性(70)が道に迷って遭難するトラブルがあった。翌日、長野県警に救助されたが、居場所の特定に貢献したのが中部電力パワーグリッドの社員。男性のひと言が、県警と電力関連会社の連係プレーにつながった。

 「渓流釣りに来ていて、山中で道に迷った」。県警阿南署に、静岡県袋井市の男性の携帯電話から入電があったのは、4月8日午後5時40分ごろ。男性は日帰りの予定で、山中で長時間過ごせる装備は持ち合わせていなかった。

 広大な山林で男性の居場所の特定は難しい。GPSでも試みたが、「市街地と異なり、山中では詳細が分からない」と同署の宮本忠義次長。夜間の捜索は二重遭難の恐れもあった。

 大まかな場所でも知りたい。携帯電話の充電量を気にしながらの通話で、男性から聞いたひと言がヒントになった。「鉄塔への案内板が見えます」。署は、鉄塔を管理する中部電力パワーグリッドに連絡した。

 同社で対応に当たったのが、飯田電力センターの伊佐治圭介所長(46)。伊佐治所長は県警からの連絡に、「送電設備に精通した社員が道案内できれば」と考えた。指名したのが、現場付近での作業経験があった、設備保守担当の平沢敏樹さん(32)と三千敦士さん(24)。2人とも業務で、ひと月に1~2回程度は県南部の急峻(きゅうしゅん)な山々に入ってきた。

 2人と阿南署員4人の計6人は、翌朝5時から捜索を始めた。「男性は川の近くの谷底にいるようだ」という情報や、案内板に記された番号などから見当をつけた、静岡県境近くの山中に向かった。

 道中はきつい傾斜が続いたが、ペースを緩めつつ、ゆっくりと6人で登った。目視できなかったものの、午前6時半ごろ、男性の話や携帯電話の位置情報から、男性の半径約300メートル以内の場所まで近づいたようだった。平沢さんらは、設備点検用のドローンも使って捜索。それから約2時間後の午前8時40分、県警ヘリコプターが男性を見つけ、男性は無事救助された。

 伊佐治所長と平沢さん、三千さんは4月16日、同署から感謝状を贈られた。「早く見つけなければ人命に影響があった恐れもある。協力に深く御礼を申し上げたい」と松下佳弘署長。宮本次長は「場所が絞り込めなければ、ヘリも位置を特定できず、広い山林を当てもなく捜さざるを得なかったのでは」とたたえた。

 伊佐治所長は「地域に置かせて頂いている設備が役立った。2人は普段から非常に熱心な社員。貢献できて非常によかった」と話した。(高億翔)