球児も活用するラプソード 回転数2100→2400に

山口史朗 山口裕起
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 感覚よりも論理で――。高校野球の現場にも先端技術が入ってきている。大リーグやプロ野球などで使われる機材を導入することで、投球の球速のみならず、回転数や回転軸、変化量を計測して上達に役立てる高校がある。SNSを駆使して不特定多数のフォロワーから助言を仰ぐ指導者もいる。

「伸び」「キレ」数値化し上達

 ブルペンで1球投げるごとに、立花学園(神奈川)のエース小林爾(みつる)(3年)はマウンドのそばに置いたiPadの画面を確認した。

 「カットボールが、理想の回転になっているのかをチェックしています」

 画面には、今投げたボールの球速や回転数、変化量、打者から見た軌道などが数秒で表示された。

 立花学園が2019年冬から導入する「ラプソード」が示すデータだ。

 ラプソードとは、高性能のカメラとレーダーを搭載した簡易型弾道測定器のこと。マウンドと捕手の間に置いて投球すると、専用のアプリに詳細な投球データが表示される。

 小林はこれで、右腕から投じるカットボールとスライダーが同じ軌道になっていないかなどを確認し、修正の参考にしている。

 「同じ軌道だと使い分けができないので。週に1、2回は状態のチェックに使っています。すぐにデータが見られるから、色々試しながら練習できます」

 「ボールの伸び」「変化球のキレ」など、これまで投手自身や指導者の「感覚」に頼って表現していた球質を、数値として示してくれるのが、ラプソードなどの弾道測定器だ。大リーグや日本のプロ野球でも、ほとんどの球団で導入されている。

 指導現場への導入の意図を立花学園の志賀正啓(まさひろ)監督(34)はこう語る。

 「1番の目的は、自分の投球を『客観視』してもらうためでした。感覚と実際に出た数値を即座にすり合わせることで、フィードバックが早くできる」

 1球1球、数値を確認し、試行錯誤しながら投球することで、選手たちに「自ら考えて練習する」という習慣が身についたのも大きな成果だった。

 高度なIT機器だけではない。立花学園では選手たちにスマートフォンを使った情報収集も積極的に促している。

 右腕の永島田輝斗(きらと)(3年)は高校で球速が10キロほど上がり、最速150キロになった。SNSで知った野球指導者に会いに行き、速い球を投げるコツを教わったり、インターネットでプロテインを摂取するタイミングや最適な食事量を調べたりしてきた。

 「投手は野手に比べて、練習を自分の考えに任せられる時間が多い。自分で色々調べて、考えてやる習慣がつきました」

 IT化が急速に進む現代社会において、「18歳で高校を卒業したときに、スマホなどのデバイスを使いこなせない人間でいてほしくない」と志賀監督。

 永島田を筆頭に自発的な練習が功を奏し、チームには140キロ超の投手が次々と誕生。今春の県大会では3回戦で横浜に1―4で敗れたものの、激戦区の神奈川で4強、8強の壁を破るべく、投手層は着々と厚くなっている。

 志賀監督は17年に就任。前任校では「教え魔」だったと自らの指導を省み、いまは一緒に勉強するというスタンスで選手に寄り添う。

 与えられた練習ではなく、自分で情報を得て、かみ砕き、取捨選択しながら練習に取り組む。立花学園には「考える習慣」が根付いている。山口史朗

80万円は「出世払い

 客観的な指標を採り入れた練習の成果を大舞台で実感した投手もいる。今春の選抜で4強入りした天理(奈良)のエース達(たつ)孝太(3年)は今年1月、父の等さんに頼み込んでラプソードを買ってもらった。理想とする大リーガーのダルビッシュ有(パドレス)が、この機器を使っているのを見て、欲しくなった。

 「これまでは自分の感覚だけが頼りになっていた部分があったけど、ラプソードを採り入れたことでフォームをしっかり修正できるようになった」。使い始めて約4カ月。身長193センチ大型右腕は、効果をそう説明する。

 ブルペンでは1球ごとにデータを確認し、リリース時のひじの位置や手首の角度などを変えながら、理想の球を追求してきた。「同じ145キロでも、球の質はいろいろあることがわかった」。チームメートにも貸して、データを共有しながら高め合っている。

 選抜2回戦の健大高崎(群馬)戦では自己最速を2キロ更新する148キロを記録し、被安打2、8奪三振で完封した。成長が表れているのは球速だけではない。ラプソードによる直球の回転数は1月の約2100(1分間あたり)から、5月上旬には2400近くまで増えたという。一般的に回転数が多いほど、打者に伸びを感じさせると言われている。準優勝した春季県大会後には、「狙って三振がとれるようになってきた」とも語っていた。

 夢はメジャーリーガーだ。ふだんからテレビや動画で大リーグの試合を見て、あこがれを抱く。機材は約80万円と高額だったが、父には「出世払い」をするつもりでいる。(山口裕起)

監督、助言求めるツイート

 SNSを活用して外部からのアドバイスを募り、部の強化につなげようとする指導者もいる。

 「投手の球の出どころが見にくいフォームとはどういうものですか」。「指導者に『刺さる(響く)』本やマンガ、ネット記事などはありますか。今は(コロナ禍で)活動できない野球人がたくさんいます」

 寝屋川(大阪)の達(たつ)大輔監督(43)はツイッターでこんな質問を投げかけてきた。甲子園出場を目標に掲げ、見知らぬ人からの返信でも、指導に生かすことがあるのだという。

 府立の進学校でもある母校の監督に就いて13年目。グラウンドは他部と共用で普段の練習は2時間ほど。私学に比べれば制約が多いが、強豪校を苦しめたこともある。ツイッターを通して部を応援してくれる人を増やしたい、との思いもある。

 大阪府への緊急事態宣言が5月31日まで延長された際には、こんなお願いもした。「部としての練習再開は実質7月。さすがに厳しい状況になりました。生徒たちに励ましの言葉を送ってやってください。チームに元気をください」

 SNSを活用した指導法は選手の評判も上々だ。主将の野崎凪(3年)は「僕たちもより深く野球を知ることができるし、納得して練習できる。今の時代に合っていると思う」と話す。

 今春の府大会は2回戦で敗れた。大阪桐蔭が優勝した日にこう投稿した。「高すぎる山であることは間違いありません。『外部アドバイザー』になっていただけるフォロワーさんを増やし『チーム寝屋川』の輪を大きくしたいと考えています」(山口裕起)