「二度と手抜きしない」 元球児の審判がとらわれた残像

河合博司
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 山梨県高校野球連盟で審判を務める内藤広文さん(56)は、かつて野球漬けの日々を送った高校球児だった。

 甲子園を目前で逃し、やがてある残像にとらわれるようになる。それが、再び高校野球に関わる原動力になった。

 本業は保険代理店の社長。休日に高校生の練習試合や公式戦など、年間80試合以上でジャッジしている。「高校球児の一番近くで感動をいただいています」

 小学3年から甲府商業高まで野球漬けだった。高校3年時にはベンチ入りを果たし、夏の山梨大会は決勝戦まで勝ち進んだ。相手は東海大甲府。勝利目前の九回、それまで0点に抑えていたエースが突如崩れた。痛恨のサヨナラ負けで甲子園を逃した。集大成の高校野球で、公式戦出場は一度もかなわなかった。

 社会人になり、不完全燃焼だった高校野球の残像につきまとわれる。試合に出られなかったことではない。「練習に全力を尽くしたか?」「仲間やコーチに信頼されていたか?」。実際は、「校外10周ランニングの時、いつも2周目で民家に隠れた」。9周目にちゃっかり合流したそうで「信頼されるわけないよね」。

 野球に恩返ししたい気持ちも募った。「いじめられっ子だった自分を助けてくれたのは野球部の仲間たち」と振り返り、「暴走族にも入らずにすんだ」と笑う。

 23歳で審判になった。「同じ舞台でリベンジしたい。仕事も野球も二度と手抜きはしない」

苦い教訓を胸に「自分の目を信じる」

 いま、県高野連の審判委員長として約50人の審判団をまとめる。「会社でも球場でも私はムードメーカーです」。試合前に選手に声を掛け、緊張を和らげる。

 球審の時、心がけている所作がある。試合前に投手は7球の投球練習をする。その時、捕手の耳元でささやく。「いいボールが来ているぞ」。捕手は7球目をつかむと立ち上がり、二塁へ送球する。すかさず「ナイス送球。良い試合にしような。俺、しっかり見るから」。球児の気持ちは一気に高まり、試合が引きしまる。

 夏の山梨大会は負けたら終わりの真剣勝負だ。どの試合も、球場を包む重い雰囲気に圧倒されるそうだ。選手はもちろん、全校応援の生徒や父母の視線が体に突き刺さる。「逃げ出したくなって足が震える」

 審判は無難にさばいて当たり前だ。微妙な判定があれば、試合後に野球仲間からLINEが殺到することもある。

 苦い思い出がある。球審だった2017年夏の山梨大会準々決勝「山梨学院―甲府工業」戦で、左翼への飛球が本塁打だったのか、外野フェンス直撃だったのか、で迷った。打球は外野スタンドの芝生ではねたようにも見え、グラウンドに戻ってきた。

 最初、三塁塁審はフェンス直撃とジャッジした。攻撃側の指摘で4審判が協議し、3審判の同意で本塁打に変更した。これで決着させれば良かった。守備側からもアピールが続き、慎重を期すため、迷ってしまった。結局、審判団は2度目の協議の末、二塁打に変更した。

 「実際はどうだったのだろう?」と、今でも当時のテレビ映像を繰り返し見る。何度見ても判別できない。

 教訓は、「一番近くで見た自分の目を信じ、確信をもって即決でジャッジしろ」。後輩に「人間だから間違いは起きる。責任は俺が取る」と日々、話している。(河合博司)