10分、20分……。終盤の難所の局面(図1)で渡辺明名人(37)は考え込んでいた。
19、20日に長野県高山村の旅館「藤井荘」で行われた第79期将棋名人戦七番勝負第4局(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)。守勢に立たされていた挑戦者の斎藤慎太郎八段(28)が反撃に転じ、激しく追い上げていた。
20日午後7時53分。渡辺が34分の考慮の末に選んだ手は、玉の右辺への脱出を図る▲5六銀上だった。次の瞬間、ネット中継の画面に表示されていた渡辺の「勝率」は、77%から30%弱に急降下。この勝率は人工知能(AI)が局面ごとに算出しているもので、斎藤が逆転に成功したことを意味した。斎藤は即座に△6七金。手つきには自信が感じられる。立会人の青野照市九段(68)は「ひえー」と声を上げた。
将棋の対局の中継で、AIの形勢判断や「次の一手」が画面に表示されるようになって久しい。優劣が一目でわかるため、ファンにはおおむね好評だ。
逆転?立会人も「ひえー」
この局面、AIが示した最善手は▲3四角。なぜ渡辺名人は断念したのか。斎藤八段の思惑は。二人の思考に、将棋担当記者が迫りました。
しかし、人間が思いつかない…