埼玉県内の首長接種、9割「一般枠」

新型コロナウイルス

日高敏景
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 首長の新型コロナウイルスワクチンの接種について埼玉県内の63市町村に聞いたところ、およそ9割にあたる58人が一般住民と同じ枠で接種すると答えた。国の手引きでは、首長は明示的に優先接種の対象になっていない。首長が感染すれば行政運営に影響が出ると考えている自治体もあり、危機管理の観点から難しい判断を迫られている。

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 ワクチン接種は優先順に、①医療従事者等②65歳以上の高齢者③基礎疾患のある人、高齢者施設で働く人、60~64歳④それ以外となっている。

 厚生労働省によると、コロナ患者に頻繁に接するなどウイルス感染にさらされる機会の多さ、年齢や基礎疾患といった重症化リスクの高さによって決められた。政府が過去に示した「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」では、首長など危機管理にあたる「公務員」は優先接種の対象になっていたが、今回はそうした要素は含まれなかった。

 県内では3月から医療従事者向け接種が始まり、現在、ようやく多くの自治体で高齢者向け接種が始まったところだ。

 県内の首長ですでにワクチンを打ったのは6人。このうち、5人が年齢で分けられた一般の枠とは異なる枠を使った。

 寄居町の花輪利一郎町長(76)とふじみ野市の高畑博市長(59)の2人は、医療従事者「等」の枠を使った。国の手引きが、接種会場で接種を受ける人と頻繁に接すると自治体が認める職員を対象にしていいとしていることなどを根拠にしたという。

 「町長が率先してコロナ対策に取り組んでおり、実際に会場で接種を受ける人を介助するため」(寄居町)、「市政のトップ、接種のオペレーションのトップという立場を考慮した」(ふじみ野市)と説明している。

 医療従事者枠ではなく、キャンセル分を使ったのは加須、鶴ケ島、越生の3市町。「医師会と調整し、危機管理の観点からすぐに接種を受けるべきと判断した」(加須市)、「危機管理のリーダーとして感染予防の重要性を考慮した」(鶴ケ島市)、「対策本部会議でリスク管理から先行して打ってほしいと要望が出て決めた」(越生町)。いずれも危機管理を重視したという。

 川口市の奥ノ木信夫市長(70)は公表した上で一般と同じ高齢者枠で接種した。

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 一方、ほとんどの自治体は「優先枠」での接種を見送った。ただ、多くは「危機管理」の重要性を指摘し、判断に迷った胸の内を明かす。

 ときがわ町は、行動計画を参照したうえで、「行政のトップには受けてもらった方がいいとも検討したが、今回は対象者として言及がないため、国の手引きに基づいた」とした。上尾市も同様に、「危機管理の考え方として行動計画に基づき、先行接種をすべきではという議論もしたが、今回は国が出した優先接種対象にのっとり判断をした」という。

 首長が48歳の狭山市は、高齢者の接種が終わった後に一般と同じ枠での接種を予定しているが、接種時期は見通せない。担当者は「危機管理の観点から早くワクチン接種をするのが望ましい。今後ワクチンの供給と接種体制が拡充し、市民の接種が円滑に進む場合は、改めて接種時期を検討したい」とした。

 また、警察や教職員、保育士など「多くの人と接する職業の従事者も優先接種の対象とすべきだ。こうした職種の接種については国として指針に定めるべきではないか」と指摘した。

 「(首長が)感染すると指揮系統に影響はあると思うが、接種を希望する市民を優先に進める」(飯能市)といった声もあった。

 首長が82歳で県内で最高齢の滑川町も、ワクチンが逼迫(ひっぱく)しているため一般の高齢者と同じ枠で打つという。8日付で辞職した前和光市長は接種していない。

 大野元裕知事は18日の記者会見で、首長の接種について「個人として申し上げると、危機管理という観点からいえば、率先して接種するべきだ」と話した。一方、国の制度として首長の接種を定めていない以上は、県民が接種をためらっている場合などを除き、「ルールに従い一般の方と同じように申し込みをし、接種をするべきだと考えている」として、自身は一般の枠で接種するとした。

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 新型コロナウイルスに感染し、今月14日まで19日間の入院生活を送った埼玉県所沢市の藤本正人市長(59)は、この問題をどう考えるのか。

 国が優先的な枠での首長の接種を明示しなかったこともあり、藤本市長は「一般枠」でのワクチン接種を予定し、3月議会でもそう答弁していた。ただ、自身が感染したことも踏まえ、首長の優先接種について今は「そういう判断もあっていい」と受け止める。

 「外部のいろいろな方と会って話を聞くのも首長の役割。いざとなれば最前線にも出ていかなければならない。これからは、接種会場に足を運ぶことも必要になる」と言う。

 入院中は重篤な症状ではなかったため、市幹部らと電話で連絡を取り合った。定例の政策会議も重要事項を電話で伝えるなど、市政運営に大きな支障は出なかったという。ただ、「その場に私がいないこと自体が、ふつうの状況ではなかった」と振り返る。

 国の方針の不明確さが今回の混乱を招いたとの指摘については、「国もまずは重篤化する人たちへの接種に光を当てたわけで、そこは仕方ないと思う。完璧な施策は難しく、試行錯誤しながら進めていくしかない」。

 一方、首長たちの優先接種をめぐる議論には、「事前に公表しておけば良かったという意見もあるが、キャンセル分の接種といった、より理解が得られやすいものでも賛否の声は必ず出てくる」と考える。

 「以前はワクチンへの理解がなかなか進まず、『まずは首長が率先垂範して打つべきだ』という雰囲気さえあった。それが今は、多くの人たちが早く打ちたいと思っている。だから『ずるい』という話になってしまう。難しいところです」と言う。(日高敏景)

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 政府の感染症対策に関わる福田充・日大危機管理学部教授(危機管理学)の話 首長は市民に選ばれた代表として危機管理をする立場があり、優先接種には合理性がある。国が首長を対象に含めなかったのはミスだ。首長や自治体幹部など現場でコロナ対策にあたる人は、医療従事者と同じタイミングで接種できるよう明確にガイドラインに示すべきだった。

 今回のコロナ対策は、国と自治体の権限が非常にあいまいで、難しい判断は全て自治体に丸投げしているとも言える。そうした事情はあるが、危機管理の鉄則が情報公開と信頼性にあることを考えると、自治体ごとの判断で首長が接種するのであれば、事前に説明する必要があった。

首長のワクチン接種についてのおもな自治体の見解

※17~19日に聞き取り。カッコ内は首長の年齢。●は接種完了、○は1回接種

医療従事者等で接種】

寄居町(76)

 町長が率先してコロナ対策に取り組んでおり、実際に会場で接種を受ける人の介助をするため

ふじみ野市(59)

 市政のトップ、接種のオペレーションのトップという立場を考慮した

【キャンセル枠で接種】

加須市(74)

 医師会と調整し、危機管理の観点からすぐに接種を受けるべきだと判断した

鶴ケ島市(71)

 危機管理のリーダーとして感染予防の重要性を考慮した

○越生町(76)

 集団接種開始前の対策本部会議で、リスク管理から先行して打ってほしいと要望が出て決めた

【一般と同じ枠(高齢者枠など)で接種】

・ときがわ町(67)

 接種してもらった方がいいとも検討したが、今回は国の手引きでも優先対象として言及がなく、そちらにもとづいた

幸手市(70)

 多くの市民と接する機会もあることから、まず接種すべきだとの議論があったが、市民に優先して接種してほしいとの市長の意向があった

飯能市(68)

 感染すると指揮系統に影響はあると思うが、接種を希望する市民優先に進める

・松伏町(66)

 医療従事者に含まれていないし、集団接種の事務には携わっていない

川口市(70)

 「早く打った」などと誤解されるかもしれないと思い、公表した上で、一般と同じ高齢者枠を使って集団接種会場で受けた

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