第9回ナウシカが「人類再生」に否と叫ぶわけ 川上弘美の考察

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太田啓之
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コロナ下で読み解く 風の谷のナウシカ
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 宮崎駿監督の傑作漫画『風の谷のナウシカ』を、知の最前線にいるさまざまな方々と共に読み解き、コロナ下の時代を生き抜く知恵を得ようというこの連載。第2シーズンの最初は、作家の川上弘美さんと「ナウシカとは何者だったのか」というテーマについて考えます。

 なぜ、ナウシカは不思議な力を持っているのか。なぜ、人類の滅びを受け入れたのか。川上さんの作品「大きな鳥にさらわれないよう」や、白土三平さんの劇画も参照しつつ展開されるスリリングな謎解きをお楽しみください!

 ――川上さんは、主人公のナウシカに対してどんな印象を持っていますか?

 「漫画版『ナウシカ』を読むたびに、ナウシカって不思議な人だと思います。登場人物の中では、土鬼(ドルク)の『ケチャ』という少女の声が私にはよく響くのですが、ケチャは自分の周囲の大切な人たちが傷つけられた時に怒り、戦う。それは、心の中に『この人たちまでは自分側』という囲いがあるからで、自分自身のためでもあるんですね」

 「でも、ナウシカにはその囲いがない。自分を傷つけるかもしれないクシャナや敵国の人々、腐海の動植物なども含め、自分の周囲に来たもの全部を守ろうとして戦う。ある意味、刹那(せつな)的な存在にも見えるんです」

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自ら慕っていた僧正が亡くなった怒りと悲しみをぶつける土鬼(ドルク)・マニ族の少女ケチャ (C)Studio Ghibli

 ――刹那的、とはどういう意味ですか。

 「白土三平さんの漫画『忍者武芸帳 影丸伝』に登場する『明美』という少女は、ナウシカを思い起こさせます。白土さんは明美の性格について『化性(けしょう)』という言葉で説明しています。『自然の事物に化した如(ごと)く、風になびく梢(こずえ)のように……、自分の行動に意識なく、自然の環境その変化によって、その時々の変化を本能的な感じのままに反射的に行動し、変化する』と」

 「明美は背後から自分を襲うヘビを、本能的にかわしたり、大発生したネズミの群れから子どもを救い出したりして、人々から『神さま』とあがめられる。恋人の剣士・重太郎もたびたび命を救われ、『不思議な少女だ』と独白しています」

【連載】コロナ下で読み解く 風の谷のナウシカ(全12回)

宮崎駿監督の傑作漫画「風の谷のナウシカ」は、マスクをしないと生きられない世界が舞台です。反響をいただいた「コロナ下で読み解く風の谷のナウシカ」の第2シーズンでは、新たに4人の論者に太田記者が迫ります。

ナウシカよりも、むしろ腐海に希望を感じた

 ――自然の事物と化したかのように、本能的に行動し、人々を救う。まさに「ナウシカ」ですね。

 「ただ、明美にとって最も『…

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