ちばてつやが語るジョー まっ白に燃え尽きたかったのは

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聞き手・黒田健朗
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「あしあと ちばてつや追想短編集」収録の「グレてつ」から。「あしたのジョー」のラストシーンを思いついた場面 (C)ちばてつや/小学館
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ちばてつや語る「トキワ荘」「ジョー」「戦争」<上>

 23年ぶりとなる短編集「あしあと ちばてつや追想短編集」を発表した漫画家のちばてつやさん(82)。オンラインで約1時間のインタビューを行った模様を2回に分けて紹介する。「上」では、ある「事件」をきっかけに接点ができたという漫画家の梁山泊「トキワ荘」のエピソードや、「あしたのジョー」(原作・高森朝雄)の「真っ白に燃え尽きた」ラストシーンの伏線の裏話などを語ってもらった。

助けてくれたトキワ荘の「トモガキ」

 ――「あしあと」も、同時発売された「ひねもすのたり日記」4巻も、戦争体験や新人時代の話など、ご自身の半生を振り返る内容が盛り込まれていますね。

 意識して自分の半生を描いているつもりではなかったんですが、そのときそのときに頼まれた時の感覚で、(終戦後、中国大陸から日本へ)引き揚げた後の話とか、どこにも描いていなかったものを、穴を埋めるような感じで描いていました。あまり計画性がない人間なので、無意識のうちにこういう風につながっていたんだな、と(笑)。

 ――短編集収録の「トモガキ」(2008年、週刊ヤングマガジン)では若手時代に大けがをして、トキワ荘にいた石ノ森章太郎さん(当時は石森章太郎)、赤塚不二夫さんらトキワ荘の漫画家たちに「ママのバイオリン」(1958年~59年、少女クラブ)を代筆してもらったエピソードが描かれています。雑誌掲載の少し前に赤塚さんが亡くなられたのが執筆のきっかけだったのでしょうか?

 赤塚さんが亡くなる前に描き始めていたんです。お世話になったという話を描いて、入院している赤塚さんに持って行って見せたいな、と思っていました。まさか、描いていくうちに、赤塚さんが亡くなるとは思っていませんでした。物語の最後の方はぶっつけでお葬式の場面にしました。

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「あしあと ちばてつや追想短編集」収録の「トモガキ」から。ちばてつやが大けがをし、編集者と弟のあきおは驚く (C)ちばてつや/小学館

 ――作品では当時の大けがについて、ちばさんがカンヅメ中に担当編集者に電気アンマ(股間を足でぐりぐり押す遊び)をかけるいたずらをしていたのが原因と描きました。長年秘していたという話を明かされるようになった理由は?

 私が電気アンマをかけた編集の新井善久さんには「口が裂けても言わないでね。ちばさんを蹴飛ばして大けがさせたということになったら、クビになっちゃうから」と言われていました。(少女クラブの)丸山昭編集長たちには、私と弟のあきお(※漫画家・ちばあきお。「キャプテン」「プレイボール」など)がプロレスごっこをして、ガラスに突っ込んだという話にしていました。それが、新井さんが出版社を退社されて、「もういいよ」と許可が出たんです。「じゃあ、いつかその話マンガに描くよ」と。

 トキワ荘の石森さん、赤塚さん、よこたとくおさんたちに、そのときたくさんお世話になりました。言葉ではお礼は言いましたけど、作品で描いて、改めて「ありがとう」という気持ちで描いたんですね。

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「あしあと ちばてつや追想短編集」収録の「トモガキ」から。トキワ荘の赤塚不二夫(右のコマ)と石ノ森章太郎(左下のコマ)がけがをしたちばの代筆を引き受ける場面 (C)ちばてつや/小学館

 ――トキワ荘は昨年、マンガミュージアムとして復元され、注目を浴びています。ちばさんが外の目から見たトキワ荘というのはどんな空間だったんでしょうか。

 けがをしたことがきっかけで、それからすぐに新井さんにトキワ荘へ連れて行ってもらったんです。今でも覚えているんですが、ギシギシいう木造の階段で、あがっていくとトイレのにおいがして(笑)。落とし便所だったものだから、アンモニアですごいにおいがして、子どもが「目が痛い」って、泣いていたのを覚えています。2階に行って、廊下のずっと奥の方の左側に石森さんの部屋があった。狭い4畳半くらいの部屋に若い漫画家たちが集まっていました。そのときは、口の中にも目の近くにもガラスが刺さったので、ミイラみたいに包帯を巻かれて、口を開けられず、ただただ頭を下げるだけでした。菓子折りをひとつ持ってね。それが、初めてのトキワ荘でした。

 私は長男だったんです。今はそんなこと関係ないけど、昔は親と一緒に暮らして側にいるのが長男の役目と言われて育ってきたから、家を出たことがなかった。トキワ荘みたいに、同じ夢を持った若い漫画家たちが同じ屋根の下で、隣に声をかけたら漫画をカリカリ描いている雰囲気というのは、うらやましくてしょうがなかったですよ。私が長男じゃなかったら、トキワ荘に行って、みんなと一緒にマンガの話をしながら描きたいなって思ったぐらい。

 ――その出会いをきっかけに、石ノ森さんや赤塚さんが描いていた同人誌「墨汁一滴」にも参加されたそうですね。

 仲間に恵まれました。駆け出しの漫画家たちが、課題を出してみんなで描きあうんです。私も墨汁一滴の最後の方の巻に書きました。2回くらい参加しましたかね。若い漫画家たちが集まって、勉強会をするような雰囲気が本当に良かったですね。

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「あしあと ちばてつや追想短編集」収録の「トモガキ」から。石ノ森章太郎、赤塚不二夫らがけがをしたちばの作品を代筆した (C)ちばてつや/小学館

ジョーと紀子の場面、実は

 ――短編集の「グレてつ」(2021年、ビッグコミック)では、あしたのジョー(1967年~73年、週刊少年マガジン講談社コミックス全20巻)の最終回にまつわるエピソードも描かれています。最終回より前の、主人公の矢吹ジョーが、ジョーにほのかな思いを寄せる紀子とのデートで「真っ白な灰だけが残る」と口にした場面(14巻)は、ジョーが真っ白に燃え尽きた、あのラストの伏線のように読めますが、実際は最終回を意識して描いたものではなかったんですね?

 違うんですね。僕は1回描い…

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