第1回「ドクター・ナカムラ殺す気なかった」 男が残した本音

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乗京真知
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 「ドクター・ナカムラを殺してしまったと話している男がいる」

 今年1月15日(金)午後1時過ぎ、携帯電話の通話アプリにメッセージが届いた。アフガニスタンの情報提供者から送られてきたメッセージを、助手が英訳したものだった。

 「ドクター・ナカムラ」とは、アフガニスタンで人道支援活動を続けるNGO「ペシャワール会」の現地代表で、医師の中村哲さん(当時73)のことだ。中村さんは2019年12月4日朝、東部ナンガルハル州ジャララーバードで車に乗っていたところを武装集団に襲われ、銃撃により殺害された。

連載「実行犯の『遺言』 ~中村哲さん殺害事件を追う~」

アフガニスタンで2019年12月、人道支援を続けてきたNGO「ペシャワール会」現地代表で、医師の中村哲さんらが乗った車が武装した集団に銃撃され、中村さんら計6人が死亡しました。アフガニスタンでは同国大統領が監督する最重要事件に指定されましたが、捜査は難航。しかし、今年1月になって朝日新聞記者のもとに実行犯を直接知るという人物からの情報提供があり、事態は大きく動きます。果たして実行犯はどんな人物なのか。なぜ中村さんを殺害したのか。情報提供者や事件の目撃者らの証言、過去の取材の蓄積から、事件の全貌に迫ります。全8回の連載です。

 中村さんに銃口を向けた犯人を何としてもあぶり出したい。私はそう思って、アフガニスタンにいる助手ら4人とともに取材を続けていた。

 最も神経を使ったのは、取材における安全の確保だった。ちまたに銃があふれるアフガニスタンで犯人を捜すことは、自分だけでなく助手や、その家族を危険にさらすことでもある。少しずつ人脈をたぐり、情報を集めてきた。

【動画】中村哲さんが銃撃されたアフガニスタン東部ナンガルハル州ジャララバードの現場=パジュワク・アフガン通信提供

 この間、様々な臆測が浮かんでは消えた。政敵を追い落とすために、話をねじ曲げる政治家がいた。謝礼を期待してか、思わせぶりに話す警察官もいた。疑わしい人物を名指しするのだが、いずれも確証がなかった。「また聞き」のうわさが多く、犯人から直接話を聞いた者はいなかった。

 ところが、今回は「また聞き」ではなかった。情報提供者は、犯人から直接、「殺してしまった」という証言を得たというのだ。

 情報提供者とは、3年来の付き合いがあった。別の暗殺事件の取材で2016年に知り合い、連絡を取るようになった。情報提供者自身、隣国パキスタンイスラム武装勢力「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」の一員であったため、武装勢力の派閥争いや人事に詳しかった。TTPは2012年にマララ・ユスフザイさん(後にノーベル平和賞受賞)を銃撃したことで知られる。

 情報提供者は普段、パキスタンではなく、国境を越えたアフガニスタンの山奥に潜伏していることが多かった。電波がつながる場所にいる時間は限られていた。交信が途絶える前に、より詳しく話を聞くことにした。

 私が助手を通じて最初に尋ねたのは、「殺してしまった」と話している男は、いったい何者なのかということだ。

記事後半では、情報提供者からもたらされた実行犯のプロフィールが明らかになります。数日前に会ったばかりという情報提供者と記者の詳細なやりとりから、中村さん殺害事件が起きるまでの経緯や男の正体が徐々に浮かび上がります。

アフガニスタン東部の山奥に潜伏する男 その名は…

 情報提供者によると、男の名…

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    プチ鹿島
    (時事芸人)
    2021年6月23日17時45分 投稿
    【視点】

    この記事を書いたのが「乗京真知」記者だと知って興奮しました。以前に『追跡 金正男暗殺』のレポで圧倒されたからです。   いま「新聞」と言えば、各紙の論調の違いに好き嫌いが分かれたり、”もう古いよ”と言う人もいる。しかしこうした地道な取材

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    鵜飼啓
    (朝日新聞オピニオン編集長代理=国際)
    2021年6月8日11時45分 投稿
    【視点】

    2001年の米同時多発テロを受けたアフガン空爆の際、3カ月ほどアフガンや隣国パキスタンで取材しました。タリバーンが逃げ出した直後のアフガンに入ったときには「戦国時代はこんな感じだったのかな」と感じ、「この国の将来は教育にかかっている」と強く