第6回疑われた軍閥トップ 口にした中村さんへの感謝と犯人像

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乗京真知
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実行犯の「遺言」 中村哲さん殺害事件を追う⑥ デザイン・小倉誼之
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 中村哲さんの殺害事件を調べるアフガニスタン情報機関が、イスラム武装勢力パキスタンタリバーン運動(TTP)」メンバーの男アミール・ナワズ・メスードを容疑者と特定するまでには、いくつかの曲折があった。アフガニスタン情報機関は、地元の武装勢力だけでなく、有力な政治家も、捜査対象者として一時マークしていた。

ポッドキャストでも、乗京真知記者が事件の裏側を肉声でリポートします。

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連載「実行犯の『遺言』 ~中村哲さん殺害事件を追う~」

アフガニスタンで2019年に起きた医師の中村哲さん殺害事件の全貌に迫る連載です。6回目は、アミールの他にも当局がマークしていた人物を記者が追います。

 その中で最も注視されていた一人は、事件のあったアフガニスタン東部ナンガルハル州の利権を握る政治家ハズラット・アリ(57)だった。現地では事件後、中村さんの灌漑(かんがい)事業によってもたらされた水や緑豊かになった土地の配分をめぐって、利権を一手に握りたいアリが、中村さんとの間でトラブルを抱えていたのではないか、といううわさが出ていた。うわさは臆測の域を出ないものだったが、アリに疑いの目を向ける捜査員もいた。

 灌漑をめぐっては、流域の村々で水や土地に絡むもめ事が何度か起きてきた。地元住民らによると、2010年の渇水時には流域の村々が水の配分を巡ってもめ、取水口に人を集めてにらみ合った。2011年には、灌漑による川の流れの変化で土地が浸食されたと主張する村人たちが現れた。

 水と土地の配分は、住民の命に直結する重要な問題だ。米国際開発局(USAID)などによると、一帯の降水量は年平均248ミリで、東京の約16%にとどまる。2000年の干ばつでは、国内の300万人以上が食料難に陥ったり住み家を追われたりした。

 ただ、もめ事の多くは村同士のいさかいで、中村さんが恨みを買うようなものではなかった。むしろ中村さんは村々の要望に耳を傾け、事業計画に取り込んでいくことで、もめ事を収めてきた側面があった。

 では、なぜアリが犯人として名指しされたのか。その裏には、地元住民が抱えるアリへの恐怖心があったようだ。自前の戦闘部隊を擁するアリは、1990年代の内戦時代に力を伸ばした軍閥のトップで、2000年代には州警察長官も務めた。2005年からは3期連続で下院議員を務め、東部で指折りの実力者となった。アフガニスタンには、武力を背景に政治力を握る軍閥が各地にいる。

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アフガニスタン東部ナンガルハル州の軍閥を率いるハズラット・アリ=2020年1月24日、アフガニスタンの首都カブール、乗京真知撮影

 力が増すにつれ、アリの威を借る者たちも出てきた。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは2004年版の報告書で、「見境ない略奪や、少年少女への性的暴行、反対派への嫌がらせ、山賊行為などはアリの代名詞となってきた」と指摘し、アリの影響下にある地域で麻薬取引が急拡大していると警告した。

 中村さん殺害から約1カ月半後の2020年1月24日、私は助手とともに、首都カブールにあるアリの事務所を訪ねた。犯人視されていることについて、本人がどう思っているのかを聞きたかった。

記事後半では、一時当局からマークされていたアリに記者が実際に接触します。アリは、中村哲さんへの感謝の言葉を口にするとともに、犯人像についても語ります。一問一答と合わせてご覧ください。

「自分が犯人つかまえてみせる」

 塀で囲まれた事務所の前には…

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