第8回「共犯者」パキスタンに逃亡か 逮捕を阻む国境の壁

有料会員記事

乗京真知
写真・図版
実行犯の「遺言」 中村哲さん殺害事件を追う⑧ デザイン・小倉誼之
[PR]

 中村哲さん殺害事件の追跡取材によって、中村さんを銃撃したのは犯行グループを束ねていた容疑者アミール・ナワズ・メスードではなく、その「共犯者」だった可能性が浮かんだ。アミールが死亡した今、真相を解き明かすには、「共犯者」の居どころをつかむしかない。私は助手とともに、アミールが「共犯者」と呼んだ人物の行方を追った。

ポッドキャストでも、乗京真知記者が事件の裏側を肉声でリポートします。

Apple Podcasts や Spotify ではポッドキャストを毎日配信中。音声プレーヤー右上にある「i」の右のボタン(購読)でリンクが表示されます。

連載「実行犯の『遺言』 ~中村哲さん殺害事件を追う~」

2019年にアフガニスタンで起きた医師の中村哲さん殺害事件の全貌に迫る連載です。最終回はアミールの遺言にあった「共犯者」を追います。

 手がかりになったのは、アミールが知人に言い残した「遺言」だ。第1回でも紹介した「遺言」の内容は次のようなものだ。

 <中村さん殺害事件の2カ月近く前、パキスタンの「共犯者」がアフガニスタン東部クナール州にあるアミールの隠れ家にやってきた。「共犯者」は隠れ家を拠点に、クナール川流域の灌漑(かんがい)事業に取り組む中村さんの行動を観察した。犯行計画を練り、アミールに誘拐しようと提案した。アミールは報酬がもらえるならと誘いに乗り、車や銃を用意し、犯行グループを組織した。犯行当日、アミールは中村さんを誘拐するつもりだったが、「共犯者」は中村さんを銃撃した。事件後、「共犯者」はパキスタンに逃げ帰った>

 「遺言」の内容は、第1回に登場したアミールの知人が、今年に入って私たちの取材に明らかにしたものだ。知人によると、中村さんを殺害した犯行グループは事件後、隠れ家に戻った。その際、アミールは「共犯者」に向かって「なぜ撃った!」「聞いていなかったぞ!」と声を荒らげた。アミールはその様子を携帯電話で動画撮影していた。知人はアミールの携帯電話に保存されていた動画を、アミールに見せてもらったという。

写真・図版
アミールの素顔

 また知人は、アミールがパキスタンにいる「共犯者」に電話を掛け、「お前のせいで俺に捜査が集中する羽目になったじゃないか!」「お前がミッションで来ていたことを俺は知らなかった!」と怒鳴った場面も、すぐ近くで見たという。

 ここで言う「ミッション」とは何か。知人は、パキスタン治安機関による工作活動のことだと語る。クナール川流域の治安事情を熟知し、誘拐にたけたアミールに、パキスタン治安機関の密命を受けた「共犯者」が近づいて利用したというのが、アミールが語っていた見立てだという。

 この見立ては、あくまでアミールの主張に過ぎず、うのみにするわけにはいかない。しかし、その内容が、アミール自身を大きく見せるような話ではなく、「共犯者」にだまされたという失態を打ち明けるものであることは、注目に値する。気心のしれた知人に対して、わざわざ作り話をしてまで、自分をおとしめるようなことを言う必要はないはずだ。

 また、犯行準備が「事件の2カ月近く前」に始まったとしている点にも注目したい。「事件の2カ月近く前」といえば、ちょうど中村さんがアフガニスタンガニ大統領から名誉市民権を授与されたニュースが、アフガニスタンや日本で話題になった時期だ。事件が起きたのは、2019年12月4日。中村さんに名誉市民権が授与されたのは同年10月7日。中村さんに注目が集まったことが、犯行のきっかけになった可能性もある。

パキスタンにいるとみられる「共犯者」。もしかしてパキスタンから犯行を企てたのか。なんとか取材をしたいと試みる記者に、耳寄りな情報がもたらされます。

「共犯者」は何者か?

 アミールが生前に言い残した…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。