いまキャデラックに乗るということ 気鋭の2車種に試乗

北林慎也
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 国産車の高級化と欧州車の躍進の一方で、いつの間にか見かけなくなったアメリカ車。そんな国内マーケットのシェア奪還を狙って、米ゼネラル・モーターズ(GM)の老舗高級ブランド「キャデラック」が2つの新型モデルを投入した。売れ筋の小型SUV(スポーツ用多目的車)「XT4」とミドルサルーンの「CT5」。往年の憧れだったアメ車の復権なるか? 気鋭の2台に試乗して探った。

売れ筋の世界戦略車

 キャデラックはGMの最高級ブランド。英ロールスロイスや独メルセデス・ベンツと比肩する戦前からの名門だった。しかし、石油危機以後のダウンサイジングや日本メーカーの高級車市場参入などで低迷。2009年にはGM自体が経営破綻(はたん)する。だがその後、米国の景気回復や成長市場の中国での伸長を背景に、プラットフォームの刷新による品質向上や大型SUV「エスカレード」のヒットで往時の威名を取り戻しつつある。

 そして今年、海外で先行販売していた売れ筋の世界戦略車を、満を持して国内投入した。その2車種が、キャデラック初となるコンパクトSUVのXT4と、ミドルサイズのラグジュアリーサルーンCT5だ。

 パワートレインはいずれも、合理的で現代的な2リッター4気筒直噴ターボエンジン。車両本体価格は、XT4が570万円~670万円、CT5が560万円~620万円(いずれも税込み)。高精度な運転支援システムといった豪華先進機能を標準装備する割には、ライバルの欧州勢に比べて安価に抑えた。

 少量生産でコストがかさむ右ハンドル仕様を設けない割り切りによる戦略的な値付けで、国内マーケットでの躍進を目指す。

モダンなSUV「XT4」

 先に試乗したのはXT4。フルサイズの「XT6」とミドルサイズ「XT5」に次ぐ、キャデラックのSUVラインアップで最も小さく廉価なモデルとなる。ただ、手狭な日本では一番の売れ筋となるカテゴリーがこの大きさだ。トヨタRAV4やホンダCR-V、マツダCX-5といった手練のライバルがひしめく。

 この最量販カテゴリーでは後発となるだけに、SUV選びで重要な要素となる走行性能の高さにこだわった。

 FFベースの四輪駆動は後輪の左右トルク配分が可変で、高い悪路走破性を備える。CVT全盛の今ではぜいたく品ともいえる多段トルコンは9速ATで、滑らかでストレスのない加減速は絶品。

 内装やインパネは質感が高く、1990年代のプラスチッキーなアメ車とは隔世の感がある。気の利いた収納ポケットが少ないといった不満はあるが、空調をタッチパネルにせずに物理ボタンを残すなど、運転中の扱いやすさに配慮した堅実な設計に好感が持てる。

 幾何学的なモチーフの内外装デザインも相まって、練られたコンセプトでトレンドを外さない、今どきのモダンなSUVといった印象だ。

知的なサルーン「CT5」

 一方、オーセンティックなビッグサルーンの気風を色濃く残すのがCT5だ。

 エンジン縦置きのFRプラットフォームに、クーペ風味の端正なセダンボディーをまとう。グレード展開は後輪駆動の「プラチナム」と四輪駆動「スポーツ」の2種。試乗したのはプラチナムだ。

 エンジンはXT4と同じ2リッター直噴ターボ。より車重が軽いためか、乗り味はXT4に比べて軽やか。さらに、トルコンはXT4よりも1段多い10速ATを奢(おご)る。このコンパクトな4気筒エンジンにはオーバースペックにも思えるくらい、静かで滑らか。もちろん、ハンドリングが軽快で小回りも利くという、後輪駆動の美点も存分に味わえる。

 何より、クーペ然とした伸びやかなプロポーションと切れ長LEDライトの醸す、知的でスタイリッシュなエクステリアが魅力的。オラついたフロントマスク一辺倒の日欧のビッグセダンに食傷気味の若いエグゼクティブに、ぜひオススメしたい。

 ただ、XT4とCT5のどちらも、ほぼ唯一最大の不満となるのが、本国と同じ左ハンドル仕様しかない点。

 同じGMブランドのシボレーでは、ミッドシップのスーパーカーに生まれ変わった新型コルベットが国内向けに右ハンドル仕様を用意する。それだけに、より台数を売るはずのXT4とCT5で日本のオーナーが不便を強いられるのは残念でならない。

先進性とクールさの象徴

 「100年に一度」といわれる自動車業界の大変革期にあって、各メーカーはこぞって電気自動車(EV)シフトを打ち出す。なかでも、GMが今年1月に発表した計画は急進的だ。

 その内容は、2035年までにエンジン車を全廃、走行中に排ガスを出さない「ゼロエミッション車」に全面的に置き換えるというもの。ラインアップのフル電動化で、先行する米テスラを追撃する構えだ。すでに高級ブランドのキャデラックからは、独自プラットフォームのEV「リリック」を発表。来年中に販売を開始する。

 大柄で派手なデザインの車体に大排気量エンジンを載せて安楽な快適装備で優美に流すという、20世紀的クルマ観の象徴だったアメ車と、そのイメージリーダーだったキャデラック。ただ、「燃費が悪い」「故障が多い」といった往時のアメ車のネガティブな記憶と無縁な若い世代にとっては、ITやEV、自動運転のベンチャーが勃興する米国ブランドは先進性とクールさの象徴でもある。

 XT4とCT5に垣間見えた確かなクルマ作りを土台に、老舗のキャデラックが新たに仕掛けるEV攻勢。日欧のプレミアムブランドにとって大きな脅威になるかもしれない。(北林慎也)