元ひきこもりと支援者の漫才コンビ 孤独な日々に笑いを

川口敦子
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 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言東京都で続く中、生活に少しでも笑いを届けようと奮闘している漫才コンビがいる。コンビの名前は「キラーコンテンツ」。「元ひきこもり当事者」と「支援者」で結成した異色の2人組だ。

 昨年秋、東京・浅草の「東洋館」。2人は舞台に立ち、息の合った漫才を披露していた。

 「外国人といえば?」

 「安土桃山時代、日本にキリスト教を伝えた男、フランシスコ・ザビエル」

 つっこみ役の和出仁(わでひとし)さん(45)が振るどんな話題でも、長谷川崇(たかし)さん(37)が滑舌よく得意の歴史に引っ張ってきて、きっちりぼける。長谷川さんは自分を「元ひきこもり当事者」と呼び、和出さんは、長谷川さんの親友で「支援者」。これまで何度も「漫才新人大賞」決勝進出も果たした実力派のコンビだが、道のりは険しかった。

 2人の出会いは2000年春。吉本興業のお笑い養成学校「NSC」での「ネタ見せ」の場面だった。相方を見つけられなかった和出さんは「場の空気を読むことなく、堂々と一発ギャグをしているすごいヤツ」を見つけた。それが長谷川さんだった。「コンビを組みませんか?」と、声をかけた。

 一方の長谷川さん。中学校から休みがちになり、家にひきこもるように。高校も1カ月ほどでやめ、自分の居場所をさがそうと、見つけた場所がこの養成学校だった。お笑いコンビ「ナインティナイン」の岡村隆史さんの大ファンで、当時、心の支えは深夜のラジオ番組だった。ラジオを聞きながら、お笑い芸人に憧れを抱いた。

 中学生時代、たまに学校に顔を出すと注目を浴びた。「レアキャラが来た」と、周りがざわつく感じがどこかで心地よかった。「実はお笑いに向いているのかも」。そうして自分で選んだ場所で、和出さんと出会った。幼い頃に母を亡くし、父は仕事で家にいないことが多かった長谷川さんにとって、和出さんは「家族よりも近い他人」となっていった。

 ただ、コンビ結成後も一筋縄にはいかなかった。打ち合わせの時間がきても、長谷川さんは気が向かなければ家にひきこもったまま姿を見せない。家の電話線も抜いてしまうから、和出さんが家まで行った。

 ひきこもりの当事者に対する訪問支援では、支援者がどこまで踏み込むかが問題になりがちだが、相方という立場だからこそ、気兼ねなくできたと振り返る。

 和出さんは悪戦苦闘しながらも、長谷川さんの漫才師としての魅力を何とか世間に届けようとした。社会とのコミュニケーションの取り方を漫才のやりとりに置き換え、和出さんは時間をかけて伝えていった。

 「薄皮を1枚ずつはいでいくように、仕事を通じて過去の苦い体験を聞いていった。ときには無理やりギュッと距離を詰める。これは家族ではなく、家族に近い他人だからできたこと」

 この経験をもとに、2人は今、ひきこもりの当事者や家族に向けた講演会も行っている。まず漫才で場を和ませた後、これまでの歩みを伝える。すでに20回以上開催してきたが、今はオンライン配信が中心だ。

 和出さんは言う。「コロナ禍で、ひきこもりの人はますます孤独を感じる毎日かと思う。ひきこもりの人にも、そうでない人にも、今こそ笑いを届けたい」(川口敦子)