「かたまるな! 散らばれ!」
「ディフェンス! 右!」
初夏の日差しの中、聞こえるのは、子どもたちの声と、鳥のさえずりだけだ。
滋賀県内の三つの小学生年代のラグビークラブが集い、5、6年の部と3、4年の部に分かれ、「サイレントリーグ」が行われた。
大人は黙る。それがリーグ名の意味するところだ。
メンバーは子どもたちが決める。試合中もウォーミングアップ時も、コーチ、保護者は子どもたちに接触できない。登録選手は全員が必ず、試合に出るようにする。
大会目的にはこう明記されている。
「子どもたちが自ら考え、行動し、試合を楽しむ。その有意義な時間に大人たちは立ち入らない。それを実現させるための大会」
1月に、愛知県岡崎市でサッカーのサイレントリーグが行われた。ラグビークラブ「The Ants(アンツ)」ゼネラルマネジャー(GM)で、滋賀県ラグビー協会の副理事長などを兼務する上田恭平さんが、その様子をルポした2月の朝日新聞の記事を読み、「ラグビーでも」と、ピンときたという。サッカーの大会を主催したスポーツマネジメントグループ「Asian LABO」の承諾も得て、同じ大会名を冠した。
「大人が、やいやい言う弊害を何とかしたい」
上田さんはそう話す。
「プレー中に『ああやれ、こうやれ』と大人が介入すると、子どもはそれ以外を選択しなくなる。でも、スポーツの良さは、自由にチャレンジして、自分で解決する能力を高めるのに最適なところ。特に、伸び盛りで可能性がある年代は、失敗し、それを取り返すプロセスが大事です」
「スポーツの失敗は、失敗でも何でもない。なのに、大人が目の色を変えて失敗を責める。結局、言われたことだけをやり、問題解決能力も批判的思考も持てない人間を育てていくだけになります」
日本代表がベスト8入りした2019年ワールドカップ(W杯)日本大会以降、アンツのメンバー数は、W杯前のほぼ2倍。競技人気を大人の都合で低下させたくない思いもある。
「ラグビーはボールを持って走っても、蹴っても、パスを回してもいい。自由度の高い競技です。選択肢を縛って、『おもしろくない』としたくないのです」
参加した米原ラグビースクー…