「あなたの存在、希望になる」 里親制度、知って欲しい

編集委員・大久保真紀
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 「里親制度」は、虐待などの理由で親と暮らせない子どもを引き取って家庭で養育する制度です。国は、子どもにとっては施設養育より、家庭的な環境での生活が望ましいとして里親養育を進めています。里親になるには子どもを育てる環境が重視されますが、年齢や独身、性的少数者は欠格事由にはなっていません。里親養育の経験者の声を聴きながら、一緒に考えませんか。

「問題行動が出たら良い調子」

 東京都中野区で里親をする斎藤直巨(なおみ)さん(45) これまでに短期も含めて9人の里子のお世話をしました。里親や里子の居場所づくり、研修などをする一般社団法人の代表も務めています。

 里親制度の良さは、里親家庭とつながりのある家族、親類、友人が子どもの成長を喜ぶ人になり、自然と子どものセーフティーネットになることだと思います。同じ場所に、同じ人がいることによって、巣立った後も実家として身を寄せられる場所になります。もし別の里子がいるなど身を寄せるのが難しい場合も、行政との間に入って生活保護などの必要な支援につなぐ役目もできます。

 ただ、支援する側の児童相談所の理解は現状では足りないと言わざるを得ません。里親家庭に来てしばらくすると、子どもは試し行為といわれる問題行動を起こします。里親が困ることをわざとしたり、ミカンばかり1箱食べたり。里親がそれを児相に相談すると「施設ではそんな行動はなかった。里親家庭がよくないからだ」と子どもを引き揚げられることが少なくありません。

 問題行動は信頼関係を築きつつある中で、子どもが自分の思いを吐き出し始めたということです。私は「問題行動が出たら良い調子」と言いますが、児相は相談してくる里親を「安全な里親」としてきちんと支援すべきです。子どもの引き揚げは子どもも里親も傷つけます。

 里親に興味がある人には「あなたの存在が子どもの希望になる」と言いたい。ぜひ挑戦してほしい。子どもたちは自分の幸せを願ってくれる人を必要としています。

家族できてうれしかった 本音を出せず遠慮や不安も

 東京都八王子市のファミリーホームで育った坂本歩(すすむ)さん(26) 経験豊かな養育者が5~6人の子どもを預かる形態のファミリーホームで育ちました。小1のとき、児童養護施設から引き取られましたが、「家族ができた」とすごくうれしかった。

 僕は家庭というものに憧れていた。すぐに「自分の家」と思えたし、抵抗なく「お父さん」「お母さん」と呼び始めました。

 小学校でいじめられて私立中学に進みました。公的費用ではなく里父の稼ぎでです。施設だったら無理だったと思います。

 ただ、お金を出してもらった遠慮もあって、中高では学校帰りや祝日に友人から遊びに誘われても断り、家でのごはんを優先しました。里親からは本音を言うように言われてきたけれど、なかなか難しい。いまも完全には言えていないです。

 児童相談所の担当者はよく代わり、来るのも年1回ぐらい。困ったことや悩みは話せません。家の中に里親がいるのに、ここで不満を言ったら耳に入ってしまうと思いました。「この家にいられなくなったら」「関係が悪化したら」という不安がずっとありました。ちょっとした里子の不満や悩みを気軽に聞いてくれる場所や機関が必要です。

 36年間に18人を育てた里母を尊敬しています。里子たちにはいつでも帰って来られるこのホームが重要です。それを引き継ぐため、いまはホームの補助員として働いています。

ショートステイ的な使い方も

 里親制度に詳しい白井千晶・静岡大教授(家族社会学) 日本は親と引き離して子どもを保護するのはぎりぎりになってからですが、一度分離すると、親子の交流がなく里親家庭での生活が長期化する傾向が強い。フランスでは子どもが平日は里親家庭で、週末は実家で暮らすなど柔軟な里親制度になっています。

 実親との交流が見込めない場合は早く特別養子縁組を進め、そうでない場合はショートステイのような里親の使い方も考えてほしい。学校区に里親を増やし、子どもを実親と切り離さずに親も支援する方向で、柔軟に里親を活用していくべきです。

 虐待さえなければ、社会的養育の場として里親家庭がいいと思います。それでも子どもの意見をきちんと聴く必要があります。どの里親がいいか、いまの里親はどうかなどを聴くことは必須です。

 里親の研修や支援は欠かせませんが、委託するときの入り口の対応も大切です。委託前に子どもの育った環境や特性などの十分な情報が里親に提供されなくてはなりません。しかし、いまはそうではないケースも多く、里親の疲弊や混乱、それに伴う子どもの傷つきを生んでいます。

 里親制度は遠いもののように思うかもしれませんが、病気や事故で自分が子どもを預ける側になるかもしれない。安心して預ける、預かるということが、子育てと同じぐらいあたり前になってほしいと考えています。

2人の母が私にはいます 血のつながらぬ家族 理解して

 東京都内の里親宅で暮らす中学3年のコッパーさん(14) 顔と名前を出して意見を言いたいけれど、児童相談所から里子だからダメだと言われている。何をするにも生みの親の許可が必要だそうです。でも、自分がいないみたいでつらい。里親の家の姉が描いた似顔絵とニックネームで話します。

 私は3歳のときに乳児院からいまの家に来ました。うれしかったけど、同時に、本当に大切にされるだろうかと不安もありました。

 乳児院では夜に先生たちが交代するのでここではどうだろうと、夜中に里親の枕元まで行って「あ~、いる」と確認していました。

 納豆やプリンなど嫌いなものがあっても1年以上我慢して食べていたし、以前はやっぱり遠慮があった。好きなトマトがお皿に一つ残ったときに「食べていい?」と言えるようになったのは、2年ぐらい前です。

 小4のとき、万一のときのために持たされていた千円をお菓子を買って使ってしまい、家に帰れなくて家出しました。うろうろした後に里子仲間の家にいたら、里母が来て「どれだけ心配していたと思ってるの!」と怒られました。そのとき、本当に心配しているのがわかり、「私はここの家の子なんだ」と思えた。

 社会には、血のつながりがない家族がいるということを理解してほしい。一方で、私は生みの母にも会いたい。2人の母が私にはいます。

児相はもっと里親を支えて

 4歳から里親家庭で育ち、関東地方で公務員をしている女性(25) 私は生まれてすぐ乳児院に預けられ、2歳で児童養護施設に移り、里親には4歳で引き取られました。「絶対にイヤ」と大泣きしたまま抱っこされて連れて行かれました。

 あのとき、周りの大人はイヤという気持ちを聞き流すのではなく、もっと寄り添ってもらいたかった。結果的には引き取られてよかったのですが、気持ちを聞いてほしかったです。

 しばらくは里親の背中にけりを入れ、腕にかみついていました。里親はよく私を戻さなかったですよね。

 小学校の入学前、クレヨンで家具に落書きをしました。怒られると思ったら、里母は「上手だね。よく描けたね」と言ってくれた。「安心してここにいられる」と思いました。

 でもそうなると、今度は「いつまでいられるのか」という不安が生まれ、里母に聞くと「わからない」。それ以上怖くて聞けませんでした。

 見通しなどは児相がきちんと子どもに伝えるべきです。なんでも里親任せでは里親の負担が大きすぎます。児相は里親をもっと支える必要がある。実子のケアも考えてほしい。私にも里親の実子の姉がいますが、姉は私に父母をとられたように感じたのではないかと思います。

 私が里親宅を「自分の家」と心から思えるようになったのは、大学に入って寮生活をするようになってから。困ったことがあれば頼り、1カ月に1回ごはんを食べに帰っていました。里父が病気になり、万一のときに病室に入れないのは困ると、23歳のときに養子縁組をしました。

 いまは親とは何でも話ができます。この家で育ててもらってよかったと心から感謝しています。

 児童福祉の分野の仕事で私が出会う子どもたちは施設より里親を希望することが多い。「家庭がほしい」「自分だけの父母がほしい」と言います。彼らの希望を実現できるように、また里親家庭で安心して暮らせるように早急に里親養育の環境整備を進めてほしいと思います。

里親などと生活の子 約8000人

 虐待などの理由で公的責任で社会的に養護されている子どもは約4万5千人。うち里親やファミリーホームなど家庭的な環境で生活するのは約8千人で、10年前の約2倍です。

 2016年に改正された児童福祉法に「家庭養育優先原則」が記され、家庭で暮らせない場合は里親養育が望ましいと国が進めているからです。子どもにとっては一つ屋根の下で特定の大人と愛着関係をもつことは極めて重要です。愛着関係は人との信頼関係を築く基礎になり、その子の将来に大きく影響します。

 しかし、里親制度はあまり知られていません。里親には手当や子どもの生活費が出ますし、数日から成人するまでなど期間もさまざまです。里親になるには研修を受ける必要がありますが、独身や性的少数者、年齢などは欠格事由ではありません。興味がある方は地元の児童相談所に連絡してみてください。

 里親制度をよりよくするには、里子や里親の声を聴くことが必要です。何に困っているのか、どんな思いでいるのか。関係がよくても子どもにも里親にも不安や悩みはつきものです。子どもたちの健やかな育ちには、里親研修の充実や児童相談所による細やかな支援・対応が欠かせません。(編集委員・大久保真紀

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 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●こんな親子がいることを知って

 里親として2歳児と暮らしている。私を「おかあさん」と呼ぶ幼子の姿は周囲の人には奇異に映るようです。「おばあちゃんでしょ?」と聞く人も。どう見えても私たちは親子です。里親制度が広まることで、より多くの人にこんな親子がいることを知っていただきたい。(神奈川県・50代女性)

●里親として苦労や不安も

 すでに里親をやっている。お金がもらえることや見返りが得られることが前提になるなら、絶対にやらない方が良い。手当の額では計れないほどの苦労や不安が伴う。しかし、里親になったことを後悔したことはない。(福島県・40代男性)

●若い里親仲間が増えてほしい

 27歳で里親になって5年目。特別養子縁組をした2人の娘と暮らし、月に数回、養育里親として一時保護やショートステイで迎えるお子さんと過ごしている。思うのは若い里親さんが少ないこと。若い里親仲間が増えたらうれしいし、若いからこそできる支援があるはず。(愛知県・30代女性)

●まだまだ偏見が強い

 里親制度は必要で大切な仕組みだと思います。しかし、日本ではまだまだ偏見が強く、広まっていかないハードルになっていると思います。(静岡県・40代女性)

●里親家庭で不適切な行為を受けた

 過去に里親家庭を経験した者です。その家庭では宗教を勧める、生理用品を与えない、子どもに支給されたお金を子どもに渡さないなど多くの不適切な行為を受けた。不適切な事案があった際、早期発見できるように制度は整っているのでしょうか。(東京都・20代女性)

●学校の理解の不足が深刻

 助産師です。地域の里親さんたちから話を聞いて、社会の、特に学校の理解が不足している実態が深刻だと感じた。小学校で行われる「2分の1成人式」や「生い立ちを振り返る授業」に傷つく里子ちゃんの話をしっかり心に留めなければと考えている。(埼玉県・50代女性)

●里親の孤立を防ぐ体制が必要

 制度の周知に力を入れること、里親同士のネットワークを早急に構築して、里親としての悩みなどを共有できる場をつくり、孤立を絶対に防ぐ体制が必要。(京都府・60代男性)

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アンケート「生理、みんなで考えませんか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で31日14時まで実施中です。ご意見、ご提案はasahi_forum@asahi.comメールするへ。

来週6日は「語られ始めた生理」を掲載します。